1 「プーチンにこれを見せろ。この子供の目を見れるか。医師たちも泣いてる。これが奴の大義の犠牲だ」
「こちら112.応答してくれ。“Z”のマークが描かれた戦車が第2病院の周辺にいる」とウクライナ
「目視したか?」
「ああ、この目で見た。第2病院から見える位置にいる。教会の向かい、バス所だ。“Z”マークの戦車が現れた」
「カメラに収める」
ここで、戦車の画像が現れる。
「この時、“Z”の印を初めて見た。ロシアの戦争符号だ。病院が包囲されている。病院には医師たちや数百人の患者と我々もいた」(AP通信の取材班/以下、記者のナレーション)
「ああ。記者と一緒だ」
「ロシア軍に捕らえられたら終わりなのは理解している」(記者のナレーション)
1日目
2022年2月24日
「街に異常がない。ある人が言った。“戦争は爆発ではなく静寂から始まる”と。ロシアの侵攻が間近に迫る中、我々はマリウポリに入った。標的になるのは確実だからだ。だが国全体が攻撃を受けるとは思ってもいなかった」(記者のナレーション)
「特別軍事作戦を実行することを決断しました。ウクライナの占領は考えておらず、何かを強制するつもりもない。これは現在進行中の脅威に対する自衛行為にすぎないのです」(プーチン)
「マリウポリ到着の1時間後、郊外に爆弾が落ちた。防空システムを有する基地は破壊された。ロシア軍は戦闘機を飛ばしてくる。巨大な港を持つ工業都市はクリミアにも近い要衝だ。我々はクリミア危機の際もこの街に来た。ロシアは再び支配を試みるだろう。街で最もロシアに近い左岸地区に向かった」(記者のナレーション)
「息子が仕事に行っていて、私は独りきりよ。私はどこに隠れたらいいの?誰か教えて。家に帰り、地下に隠れて」(老婦人)
「今日、初めて話した市民だ。撮影をやめてなだめるべきか迷った」(記者のナレーション)
結局、取材班が降りて、説得する。
「家に帰ってください。民間人は攻撃されない。自宅で待機して」(記者のナレーション)
「息子がもうすぐ帰るの」(老婦人)
「早く帰って。彼は自力で戻れる」
「爆撃されない?」
「それはない。地下にいてください」
しかしまもなく、爆撃を目の当たりにした記者。
「僕が間違っていた。1時間後、砲弾が民家を直撃した」
「何かが当たり、家が燃えた」と初老の民間人。
「マリウポリがロシアの支配下に置かれる可能性があると?」(記者)
「あり得るだろう。絶対に嫌だがね」と初老の民間人。
「どうして?」(記者)
「ウクライナ人として生きたい。プーチンの演説を見たよ。あのクソ野郎め。自国民をとんでもなく美化したうえで、ウクライナを攻めることは必然だと語っていた。でなければ逆にやられると。イカれてる」と初老の民間人。
「ウクライナの国民の皆さん。戒厳令が敷かれました。我が国の安全と勝利のために必要な措置です。冷静に行動し、軍や当局の指示に必ず従ってください。偽情報に翻弄されないようにに」(公共放送)
避難指示が出ていなかったが、他の地区に避難する人々。
「窓ガラスが割れた」と一人の幼児。
「全てを壊され、略奪された。なぜ、こんな形で家を出なきゃならないの」と老婦人。
記者が質問しても、却って避難民を怒らせるだけだった。
「怒りは理解できる。祖国が攻撃されているのだ。僕の祖国でもある。だからこそ伝えねば」
ここで、取材班の記者が作り手のミスティスラフ・チェルノフ監督である事実が判然とする。
避難民はマンションの地下に身を隠す。
突然の停電で不安を生むが、すぐに電気が復旧した。
蹲(うずくま)る女の子に、「どうしたの?」と尋ねる記者に、「私、死にたくない。こんなの早く終わってほしい…爆弾の音で目が覚めたの。戦争が始まちゃった」
最後は泣き声に変わってしまった。
「戦争が始まったのだ」(記者のナレーション)
「19万にも及ぶロシア兵が北東、南の国境から侵攻。ロシアは容赦しません。プーチンの演説と共に空爆が始まりました。東部のハルキウと南部のマリウポリが攻撃を受けています」(ウクライナ公共放送)
「人々は憤慨し、プーチンへの憎しみを募らせています」(BREAKING NEWS/ニュース速報)
3日目
「ウクライナ軍はロシア軍に対し徹底抗戦しています」(ウクライナ公共放送)
「2月26日。街に緊急放送が響き渡る。ロシアが街を包囲し始めた。郊外の街を占拠し、道路を封鎖している。だが街を出た市民は4分の1。大半が残った。ここは街にあるジムだ。今や街で最大規模のシェルターになっている。鏡にテープを貼るのは、飛び散る破片を減らすためだ」(記者のナレーション)
「私は平気だけど子供が心配よ。まだ小さいこの子に何か起きるのが怖い。どうしてこんな目に遭うの?私たちが何か罪を犯した?まったく理解できない。こんなのは無意味よ」と母親。
「彼女は初日に、僕が家に帰るように伝えた人だ」(記者のナレーション)
「“民間人には攻撃しない”と言ったでしょう?だけど家に帰ったら爆撃を受けたわ」(先の老婦人)
「僕は謝罪した。無事で何よりだ…子供たちの姿を見て、自分の娘たちを想った。国中で報じられている事態を知り、嫌な予感がしていた。この街で最悪の事態が起こるのではないかと」(記者のナレーション)
「民家が砲撃を受けていますが、ロシアは“民間人は標的外”と主張。“民間人への攻撃”が強まる。恐ろしい事態を前に、大勢が国外避難を試みています。街に残った人々は爆撃を恐れ、シェルターに身を隠します。マリウポリを守る勇敢なウクライナ兵たち。この港湾都市は経済を支える拠点で、ロシアまで50キロと戦略的にも重要です。両国の攻防が広げられるのは必至です」(BREAKING NEWS/ニュース速報)
4日目
2月27日。
「兵士たちが第2救急病院の周辺を巡回。前線は数キロ先にまで迫っている。しかし、ロシア軍は攻めあぐねていた…マリウポリで、初めて戦闘機の音を聞いた。兵士たちは撮影されるのを嫌がった」(記者のナレーション)
「悪いが、撮らないでくれないか?」
「だけど、この戦争は歴史的なものだ。記録しないわけにはいかない」(別の記者)
「そこに救急車が飛び込んできた」(記者のナレーション)
「心肺蘇生が必要だ」と叫んで救急隊員が走って来て、心臓マッサージをする。
子供の患者である。
母親は「助けてやって」と泣き続けるのみ。
「連中が民間人を殺してる様子を撮影しておけ。プーチンにこれを見せろ。この子供の目を見れるか。医師たちも泣いてる。これが奴の大義の犠牲だ。記者は全員、撮影してくれ」
怒りを露わにする救急医。
救急医の必死の治療虚しく絶命したエヴァンゲリーナ。
4歳だった。
「アメリカ政府の高官がロシアの攻撃を非難。街を包囲して民間人やインフラを標的にしています」(ウクライナ公共放送)
「砲撃や空爆による被害が拡大。マンションに降り注ぐ爆撃で、大勢が死亡。大学の校舎は燃えています。“これをプーチンに見せろ”と医師は言います。“この子供の目を見れるか。医師たちも泣いてる”と。マリウポリから出られるのは明日まででしょう。その後は、全ての道路が封鎖されます」(BREAKING NEWS/ニュース速報)
人生論的映画評論・続: マリウポリの20日間('23) 善人は善行を尽くし、悪人は悪行に手を染める ミスティスラフ・チェルノフ