2024-02-01から1ヶ月間の記事一覧

にごりえ('53)   女に我慢を強いる貧困のリアリズム

一葉文学の結晶点。 映画史上に残る今井正の最高傑作。 以下、代表作3篇が揃ったオムニバス映画の梗概。 1 第一話 十三夜 沈鬱な表情で、嫁ぎ先の原田の家からせきが実家を訪れた。 久しぶりの訪問を歓迎する父・主計と母・もよ。 二人とも、嫁ぎ先の原田…

「戦争にもルールがある」 ―― 国際社会の規範が根柢から破壊される世界の〈現在性〉

他国の領土を武力で奪って国境線を変えようとする。 これだけは許されないという国際社会の根本的なルールを破ったロシアによるウクライナ侵略。 確かに、ルールなしの侵略行為は過去には横行していた。 欧州では、仏独などで戦争の度に国境線が目紛(めまぐ…

神様のくれた赤ん坊('79)   二つの旅が溶融し、二人の旅が完結する

1 「もしかしたら、あたしたちの考えてることって、同じなんじゃないかしら」 駆け出し女優の森崎小夜子(以下、小夜子)は、同棲中の漫画家志望でエキストラの仕事をしている三浦晋作(以下、晋作)に妊娠を告げるが、晋作は出産に反対する。 晋作が自宅ア…

樋口一葉の世界 ―― 赤貧地獄の只中を駆け走った「奇跡の14ヶ月」

1 「わがかばね(屍)は野外にすてられて、やせ犬のゑじき(餌食)に成らんを期す」 幼少期から才媛の誉 (ほま) れが高く、猛烈な読書家でもあった。 その知的欲求の高さが探求心に繋がり、物事に対する集中力を鍛え上げていく。 主体性も育てていくので…

ドラマ特例 ながらえば('85)   不器用なる〈心の旅〉が開かれていく  

1 「おめえにゃあ、ひと月は何でもにゃあかも知れんが、年寄りは明日をも知れん!」 1970年代。 隆吉は息子の理一の転勤に伴い、名古屋から富山に引っ越すことになった。 隆吉の妻・もと(以下、便宜的に「モト」にする)は入院中のため名古屋に残り、…

せかいのおきく('23)   投げ入れる女と受け止める男

序章 江戸のうんこはいずこへ 安政五年・江戸・晩夏 寺の厠(かわや・便所)から糞尿を肥桶(こえたご)に汲み取る汚穢屋(おわいや)の矢亮(やすけ)は、相方(あいかた)が腹を下して来れなくなり、「半分しか持っていけない」と言って、寺の坊主に半分の…