2024-01-01から1年間の記事一覧

縞模様のパジャマの少年('08)   友情を繋ぐ冒険の危うい行方

1 「いいユダヤ人もいるんでしょ?」「もし、君がいいユダヤ人に出会ったら、それこそ世界一の探検家だ」 軍人の父・ラルフの昇進で田舎へ引っ越すことになったブルーノの家族。 ベルリンを離れる前に昇進祝いのパーティーが盛大に行われた。 遊び盛りのブ…

波紋('23)   狂わなければ〈生〉を繋げない女の突破力

圧巻の筒井真理子。 現時点での彼女の最高到達点ではないだろうか。 1 「あなたがしたこと、なかったことにはならないから。癌だからって何だって」 須藤依子(以下、依子・よりこ)が目を覚ますと、目の前に夫・修(おさむ)の足の裏があった。 二人はダブ…

福田村事件('23)   則るべき道理が壊れゆく

1 「あなたは、いつも見てるだけなのね」 1923(大正12)年 千葉県 東葛飾郡 福田村 日本統治下の京城(けいじょう/現在のソウル特別市)で教師をしていた澤田智一(以下、澤田)が妻の静子と共に故郷の福田村に帰村してきた。 彼の目的は教師を辞め…

僕たちは希望という名の列車に乗った('18)   自ら考え、行動し、飛翔する若者たち

1 「ハンガリーのために黙祷しよう」 東西ベルリンの境界駅 1956年 ベルリンの壁建設の5年前 東独スターリンシュタット(現アイゼンヒュッテンシュタット)に住む高校生のテオと親友のクルトは、西ベルリン・アメリカ占領地区行きの列車に乗り、検問を…

集団と化した時に極大化する人間の脆さ 「関東大震災朝鮮人虐殺事件」が抱え込む深い傷跡

1 自警団という絶対的加害者の悍ましさ 「橋を渡って一町ほど行くと 朝鮮人が日本人に鉄砲で撃たれた 首を切られたのも見た」 「クローズアップ現代」(「集団の“狂気”なぜ ~関東大震災100年“虐殺”の教訓~」より)で紹介された東京・本所区横川尋常小…

ソフト/クワイエット('22)   レッドラインを越えていく女たち

作り手の覚悟・胆力が映し出す、全編ワンカットの圧巻の90分間。 以下、梗概。 1 「毎日妻に軽蔑されたい?…男なら勇気を出して礼儀を教えてやるの」 幼稚園教師のエミリーは、トイレに入って妊娠テストをする。 「お願い。今度こそ…」 しかし、またも不…

ニトラム/NITRAM('21)   「自分が何者であるのか」という問いを立てる力

1 「2人で行きたい。本物の家族みたいに」 ロイヤル・ホバート病院、熱傷センターで入院する子供たちにテレビのレポーターがインタビューをする。 「君はどうして火傷を?」 「ええと、寝室に上がっていく時に、ライターで火をつけてみたくなったんだ。打…

ゲット・アウト('17)   社会派スリラーの傑作

1 「妙な連中ばかりさ。俺以外の黒人もだ」 夜道に迷った黒人男性が、ゆっくりと歩調に合わせて走る不審な車に気づき、最初は知らん顔して歩き続けようとしたが、「襲われたら最後だ。逃げるぞ」と呟き、来た道を戻るが、何者かに襲われ車で連れ去られた。 …

戦場のメリークリスマス('07)   「神秘的で聖なる何ものか」に平伏す男の脆さ

1 「自分を何だと思ってる。お前は悪魔か」「そう。あんたに禍を」 1942年 ジャワ 白人と東洋人の男が後ろ手に縛られて、地面に横たわっている。 「前代未聞の不祥事が起こった。所長大尉殿に報告せず、ハラの一存で処断する」 ハラ軍曹(以下、ハラ)…

キサラギ('07)   エンタメ純度満点の密室劇

台詞を正確に起こしてみて納得尽くのワンシチュエーション映画の秀作。 伏線の全てが回収され、驚かされた。 以下、かなり長くなるが、5人の男たちの艱難(かんなん)なジグソーパズルの醍醐味をシリアス含みで描き切った本篇の要旨をまとめた投稿文です。 …

悲しみのミルク('08)   凄惨なる「地獄の記憶」を引き剥がし、進軍する

1 「母さん、見てごらん。海に来たよ」 「♪きっと いつの日にか お前も分かるだろう ならず者たちに向かって 泣きながら言ったこと ひざまずいて 命乞いをしたことを あの夜 私は叫んだ 山はこだまを返し 男たちは笑った 痛みと闘いながら やつらに言い返し…

にごりえ('53)   女に我慢を強いる貧困のリアリズム

一葉文学の結晶点。 映画史上に残る今井正の最高傑作。 以下、代表作3篇が揃ったオムニバス映画の梗概。 1 第一話 十三夜 沈鬱な表情で、嫁ぎ先の原田の家からせきが実家を訪れた。 久しぶりの訪問を歓迎する父・主計と母・もよ。 二人とも、嫁ぎ先の原田…

「戦争にもルールがある」 ―― 国際社会の規範が根柢から破壊される世界の〈現在性〉

他国の領土を武力で奪って国境線を変えようとする。 これだけは許されないという国際社会の根本的なルールを破ったロシアによるウクライナ侵略。 確かに、ルールなしの侵略行為は過去には横行していた。 欧州では、仏独などで戦争の度に国境線が目紛(めまぐ…

神様のくれた赤ん坊('79)   二つの旅が溶融し、二人の旅が完結する

1 「もしかしたら、あたしたちの考えてることって、同じなんじゃないかしら」 駆け出し女優の森崎小夜子(以下、小夜子)は、同棲中の漫画家志望でエキストラの仕事をしている三浦晋作(以下、晋作)に妊娠を告げるが、晋作は出産に反対する。 晋作が自宅ア…

樋口一葉の世界 ―― 赤貧地獄の只中を駆け走った「奇跡の14ヶ月」

1 「わがかばね(屍)は野外にすてられて、やせ犬のゑじき(餌食)に成らんを期す」 幼少期から才媛の誉 (ほま) れが高く、猛烈な読書家でもあった。 その知的欲求の高さが探求心に繋がり、物事に対する集中力を鍛え上げていく。 主体性も育てていくので…

ドラマ特例 ながらえば('85)   不器用なる〈心の旅〉が開かれていく  

1 「おめえにゃあ、ひと月は何でもにゃあかも知れんが、年寄りは明日をも知れん!」 1970年代。 隆吉は息子の理一の転勤に伴い、名古屋から富山に引っ越すことになった。 隆吉の妻・もと(以下、便宜的に「モト」にする)は入院中のため名古屋に残り、…

せかいのおきく('23)   投げ入れる女と受け止める男

序章 江戸のうんこはいずこへ 安政五年・江戸・晩夏 寺の厠(かわや・便所)から糞尿を肥桶(こえたご)に汲み取る汚穢屋(おわいや)の矢亮(やすけ)は、相方(あいかた)が腹を下して来れなくなり、「半分しか持っていけない」と言って、寺の坊主に半分の…

ドラマ特例 今朝の秋('87)    善意の集合がラインを成した物語の、迸る情緒の束

1 「おめえにゃあ、ひと月は何でもにゃあかも知れんが、年寄りは明日をも知れん!」 1970年代。 隆吉は息子の理一の転勤に伴い、名古屋から富山に引っ越すことになった。 隆吉の妻・もと(以下、便宜的に「モト」にする)は入院中のため名古屋に残り、…

夜明けまでバス停で('22)   「道徳的正しさ」で闘った女の一気の変容

1 「やめて下さい。仕方ないんです。こういうことは誰のせいでもないので」 アクセサリー作家の北林三知子(以下、三知子)は、昼は喫茶店の一角で自作作品を販売し、教室を開いたりしながら、夜は居酒屋でバイトをしている。 若い女性店長の寺島千春(以下…

she said/シー・セッド その名を暴け('22)  使命感という闘いの心理学

1 「イジメ、精神的虐待。理解するには若すぎた。彼は皆を服従させたがる」「拒むと?」「唸り声をあげ、ツバを吐き、数秒で人を破滅させる」 アイルランド 1992年 映画の撮影スタッフの若い女性が、啜(すす)り泣きしながら通りを走って行く。 ニュー…

LOVE LIFE('22)   幻想崩壊から踏み出す一歩

1 「〈あなたに協力してほしいことがある。あなたにしか頼めない〉」 深田ワールド全開の秀作。 だから、全編にわたって心理学の世界が広がり、いつものように手強い作品になっていた。 ―― 以下、梗概。 団地に住む大沢二郎は、妻・妙子、そして妙子の連れ…