2014-06-01から1ヶ月間の記事一覧

凶悪(‘13) 白石和彌 <「凶悪さ」という概念のアナーキーな氾濫への違和感>

1 「正義」を盾にした夫の叫びを打ち砕く妻のリアリズム 「絶対正義」の名の下に、「私的制裁」に奔走する一人のジャーナリストと、その背後に隠れ込み、「絶対悪」を糾弾して止まない「映画鑑賞者」=「一般大衆」の裸形の懲罰意識を露わにすることで、人…

光のほうへ(‘10)  トマス・ヴィンターベア <色褪せてくすんだ映像で匍匐する兄弟の遣り切れないほどの切なさ>

1 「守るべき者」を持ちながら、堕ちて、堕ちて、堕ちていく運命 本作のあとに創られる「偽りなき者」(2012年製作)と同様に、本質に関わらないエピソードを大胆に切り捨てて構成された映画の切れ味は出色であり、映像総体の訴求力は抜きん出ていて、…

偽りなき者(‘12) トマス・ヴィンターベア<「爆発的共同絶交」を本質にする、集団ヒステリー現象の爛れ方を描き切った傑作>

1 固有の治癒力という「特効薬」と暴力的な「排除の論理」 ―― 地域コミュニティの諸刃の剣 置かれた立場の弱い特定他者が犯したとされる、反証不能の忌まわしき行為に対して、大きな影響力を持つ者の、客観的合理性の希薄な思い込みが独り歩きし、一気に確…

終着駅 トルストイ最後の旅(‘09) マイケル・ホフマン <「不完全な男と女」が呼吸を繋ぐ人生の晩年を活写した一級の名画>

1 カリスマ性とは無縁な、一人の老人の裸形の相貌を描き切った人間ドラマ 「聖人」化された人格者の代名詞のような男の、その最晩年の心の風景の澱みと、その男への愛憎相半ばする複雑な女の感情の振幅を、短絡的な人間理解の皮相浅薄で、深みのない筆致で…