2022-01-01から1年間の記事一覧
1 「武士の世は滅びる…この継之助も滅びざるを得ない。滅びた後、日本の歴史にかってなかった新しい世の中がやってくる」 「我らの見込みは、政権の奉還より外にない。この判断に、神君家康公の御偉業を継承する唯一の道である。幕府を倒そうと事を謀る一部…
1 「…僕はね、君と話してる時間は、すごく落ち着いていられたんだ。君と話してると、僕は普通の街のパン屋さんになった気でいられたんだ」 筧井雅也(かけいまさや)の祖母が亡くなり、葬儀が執り行われる。 Fランクの大学に通う雅也は、親戚に「東京の大…
1 「一番売りたかったのは、私なのかも」「私たちの方が、ブローカーみたい」 弾丸の雨の中、一人の若い女が、教会のべイビーボックスの前に赤ん坊を置いて去って行く。 「捨てるなら産むなよ…あの女、任せた」 その様子を見ていたスジン刑事がイ刑事に呟き…
1 生きるためなら何でもするという生存戦略が渦巻いていた 「真理子、真理子!」と呼びかけながら、足を引き摺り歩き回る男の叫びから物語は開かれる。 下肢機能障害である男・道原良夫(以下、良夫)。 港町の造船所で働く良夫は、警官の友人・肇を呼んで…
1 「感情に訴える何かが起こると、雷に打たれたように体が動かなくなる。でも跳びはねれば、縛られた縄を振りほどくことができる」 「およそ10年前、10代だった東田直樹は、その著作で知らざれる世界を明らかにした。“自閉症の僕が跳びはねる理由”は、…
1 天を衝く少女の叫びが、闇のスポットを劈いていた スーパーで、20円足りずに万引きした父・原田智(さとし)を迎えに走って店に来た中学生の娘・楓(かえで)。 場所は、大阪市西成区あいりん地区。 「うちの父、ちょっと抜けてるとこあるんです」 楓が…
1 「お父さんは、お腹の中に悪いものができて、あっという間に死んじゃった。お母さんは彼氏と暮らしているよ…私、ずっとここにいていい?」 10歳の少女・家内更紗(以下、更紗=さらさ)が、公園のベンチで本を読んでいると、大粒の雨が降ってきた。 更…
1 「人間だから、罪を犯してしまう。私はそれを止めたい」 「村上さん!いるのは分かってるんですよ。会社から電話がありました。無断欠勤はルール違反です!」 保護司の阿川佳代(以下、佳代)が、保護観察対象者の村上美智子(窃盗罪 仮釈中)の家を訪ね…
1 「点滴のボタンをもう少し長く押せば、逝かせてあげられると。私にその勇気があれば、あんなに苦しませずに済んだ」 2011年1月31日、USジプサム社は業績悪化により、ネバタ州の石膏採掘所を閉鎖。企業城下町であるエンパイアも閉鎖され、7月に…
1 「前世、彼女はヤツメウナギだったの。川底の石に吸盤みたいなベロをくっつけて、ひたすら、ゆらゆらとする」 「彼女は時々、ヤマガの家に空き巣に入るようになるの」 「ヤマガ?」 「彼女の初恋の相手の名前。同じ高校の同級生。でも、ヤマガは彼女の想…
1 「世界を変えたくて、法律を学んだんでしょ。今こそカミングアウトして、世界を変えるチャンスよ」 カリフォルニア州 ウエスト・ハリウッド 1979年 ショーパブで歌うゲイのルディを見つめる一人の男。 地方検事局に勤務するポールである。 ルディもポ…
1 「家族抜きで、行動した事がないんです」 漁で生計を立てる4人家族のロッシ一家。 父フランク、母ジャッキー、そして兄レオの3人は、共に聴覚障害者。 高校生の娘ルビーが健聴者なので、「コーダ」である。 【コーダ(CODA)とは聴覚障害の家族を持…
1 「これからは僕がずっと一緒だから、安心してよ。木下恵介から、ただの木下正吉に戻るよ」 静岡県浜松市 米津(よねず)の浜 「昭和18年。太平洋戦争の最中、木下恵介は『花咲く港』で監督デビューした。浜松出身の木下は、この場所でもロケを行い、実…
1 「頑張ってたんだけど、結果としてさ、上演できなければ意味ないもの。だから、そこまでのもんだったんだって。しょうがない」 埼玉県立東入間高校の夏の高校全国野球大会の一回戦。 強豪校との対戦で、夢の甲子園球場に、バスで応援に駆り出された生徒た…
1 「大事なのは、腹割ることです。僕は、奥さん、助けたいんですよ」 下町の河川敷に建てられたみすぼらしい破(やぶ)れ屋。 人の気配はない。 そんな下町で印刷業を営む小林家には、主人の幹夫(みきお)と妻・夏希(なつき)、そして前妻の娘・エリコと…
1 「俺はお前の肺に巣食ってる結核菌に用があるんだ。そいつを一匹でも多く殺したいんだ」 眞田病院という小さな町医者に、ドアに手を挟まれて包帯を巻いた男・松永がやって来た。 釘が刺さったと言うが、眞田(さなだ)が取り出したのは銃弾だった。 「迷…
1 「生きとってくれて、ありがとな」 昭和三十三年 夏 大空建研という建築事務所に勤める平野皆実(みなみ/以下、皆実)。 復興が進む広島の街の一角にあるスラムで、母フジミと穏やかに暮らしている。 皆実には、疎開先の伯母の家に養子に入った弟の旭(…
1 「私には大切な人がいます。でも私の気持ちは絶対に、知られてはならないのです」 「未来の私からの手紙 二中三年四組 大場美奈子 あなたは、十五歳だった時の事を覚えていますか?もうずいぶん昔の事だけど、あなたは、こう思っていました。私は、この町…
1 「彼らは政府を恨んでる。何をするか分からない。全員逮捕して法廷で裁くべきです。扇動した者たちには厳罰を」 ソビエト連邦 ノボチェルカッスク 1962年6月1日 共産党市政委員会(生産担当)に所属するリューダは、上司のロギノフの家で朝を迎える…
1 「日本で一日でも長く安泰に暮らせるなら、我々がこの島を守る一日には、意味があるんです!」 硫黄島 2005 この日、調査隊が入り、地下壕に埋められた重大な資料を発見する。 硫黄島 1944 「花子、俺たちは掘っている。一日中、ひたすら掘り続け…
1 「止めて欲しいように見えた…あんなところで働かせるような奴に渡したくない」 娘が産まれたばかりの若い夫婦、たすく(・・・)とこ(・)と(・)ね(・)の会話。 「ちゃんとしようよ。このままじゃ、無理だと思う」 「何が?」 「なーんも、考えていないっしょ…
1 “先生には敬意を払いなさい。未来に触れることのできる人だ” ブータンの首都ティンプーで教師をしているウゲン。 祖母と二人暮らしで、友人たちと都会の生活を満喫するウゲンの夢は、教師を辞め、オーストラリアで歌手になること。 常にヘッドフォンで音…
<極寒の地での映像の卓抜さ/インディアン保留地の凄惨さ> 1 「俺も自分がイヤだ。だけど、怒りが込みあげて、世界が敵に見える。この感情が分かるか?」 【事実に基づく】 野生生物局のハンターのコリー・ランバート(以下、コリー)は、ワイオミング州…
<理不尽な差別を受けている「弱者」を救う男のカウボーイ魂> 1 「もう少し、時間がほしい。心の準備をさせてくれないか。まだ死ぬことに向き合えないんだよ…」 ロデオのカウボーイであり、電気技師のロン・ウッドルーフ(以下、ロン)は、ロデオ仲間で賭…
1 虐殺の大地の一角で木霊する神父の炸裂 【これはこの地で起きた実話である】 「ルワンダ 1994年。フツ族の政府は30年来、少数民族のツチ族を迫害していた。西欧の圧力で、大統領は渋々、ツチ族との政権分担に同意。国連は平和監視の目的で、首都キ…
1 海外に売られた赤ちゃんを想い、海に向かって静かに歌い出す 1988年 ペルー 実話に基づく物語 ハイパーインフレとテロが蔓延(はびこ)る政情不安な時代に、アンデス山脈の山間部に住むアヤクチョ先住民族のヘオルヒナは、肉体労働をする夫のレオと共…
1 「越中女一揆」の風景の一端 「大正七年、あらゆる権利を男が握っていた頃、富山県の漁村では、働く女房、“おかか“たちに生活の全てが委ねられていました」(ナレーション) 女子校を中退し、17歳で漁師・利夫の元に嫁いで来たイト(いとを便宜的にイト…
1 純愛譚の初発点 古い一軒家で、一人暮らしをする行助(ゆきすけ)は、不自由な左足を引き摺りながら、自炊し、バスで勤務先の大学の研究室へ通う。 行助の楽しみは、露天の骨董品屋で見つけた気に入った物を買い、たい焼き屋の香ばしいたい焼きを食べるこ…
1 赤く染まる大海原と、地平線を昇って輝く朝日 断崖絶壁の先端に立ち、タバコを吸い、真下の海を見て、後ずさりする男の後姿。 「さらば!薫君♡」と書かれた寄せ書きが張られ、就職先の大阪へ旅立つ葛西薫(かさいかおる)の送別の飲み会に集う学生たちの…
1 「このまま、共倒れになっちゃうのかね…やっぱり、母ちゃんと一緒の方がいいよね?」 庭で母・山田珠子(たまこ)に髪を切ってもらっている、息子の忠男(愛称・チュウさん)。 ハサミを入れる度に怯(おび)えて反応する忠男だが、隣の家に荷物を運ぶ引…