2011-11-01から1ヶ月間の記事一覧

四季の彩り(夏から秋へ)

北米原産のアメリカフヨウは、2mになる草丈を携えて、盛夏に真紅や白、ピンクの花を、周囲を圧倒するように凛として咲かせるインパクトの強い大型の草花。 涼を求める気分も手伝って、奥武蔵の集落を真夏に徘徊していると、民家の庭先にこの草花が咲いてい…

秋刀魚の味('62) 小津安二郎 <成瀬的残酷さに近い、マイナースケールの陰翳を映し出した遺作の深い余情>

1 「小津的映画空間」を閉じるに相応しい残像を引き摺って 死を極点にする「非日常」を包括する「日常性」を、様式美の極致とも言える極端な形式主義によって、そこもまた、根深い「相克」や、「祭り」の「喧騒」、「狂気」を内包する「騒擾」を削り取るこ…

麦秋('51) 小津安二郎 <ヒロインの「笑み」が「嗚咽」に変わったとき>

1 小津的表現世界の確信的な習癖への違和感 自らの意志で結婚を決断したヒロインの能動的生き方と、それによって招来した三世代家族の離散の悲哀、そして何より、印象的な麦秋眩いラストシーン。 この鮮烈な記憶がいつまでも私の内側に張り付いていて、若き…

山里郷愁

特に生活上の懸案の課題もなく、切迫した心理状態とも無縁で、それでも、そこに日常性への小さな倦怠感のようなものが、ふっと内側から湧き起こったとき、私は、それ以外にない選択肢という自在な枠組みの時間の中に入っていくことが多い。 そんなとき、私は…

京都晩秋

「晩秋の京都」 ―― これが、私が知っている京都のイメージの全てである。 中学の修学旅行で行った京都のイメージは、遥か彼方に捨てられていて、そこにはもう、「美しき古都」を感受させる、いかなる情報をも拾い上げることができない。 だから私にとって、…

武蔵野晩秋

「春爛漫」(その2)の中で、私は「桜花爛漫の季節のときの東京は最も美しい」と書いた。 しかし、東京が美しいのは桜花爛漫の春の季節ばかりではない。 晩秋の季節の東京もまた、垂涎するほどに美しいのである。 知られざる東京の晩秋のビュースポットが多…

ウエスト・サイド物語('61)  ロバート・ワイズ <個性的なアートとしての「ミュージカル」の「表現の外発性」>

序 凝ったオープニングシーンから開かれる本作の、時代相応にフィットした「ミュージカル」としての完成度 NYのマンハッタン島の超高層ビルから始まった説明的な鳥瞰ショットが、ストリートギャング紛いの不良少年グループの溜り場であるスラム街にシフト…

春爛漫(その2)

「春爛漫」という言葉から連想できる心地良い風景イメージが、常に私の中にあり、それが適度な湿気を随伴した柔和な風となって、私の内側を潤してくれる。 それらの心地良い風景とは、吉野梅郷であり、神代植物公園であり、平林寺であり、多摩森林科学園であ…

緑のある風景(その2)

私にとって、細(ささ)やかでも相応のヒーリング効果が手に入れられる、この「思い出の風景」が、2011年9月29日公開の「春爛漫」を以て閉じていったことにどうしようもない寂しさを覚え、「人生論的映画評論」の批評の駄文を繋ぐだけでは物足りなく…

深夜の告白('44) ビリー・ワイルダー<「袋小路の閉塞感」の表現力を相対的に削り取ることで希釈化された、ダークサイドの陰鬱感漂う「フィルム・ノワール」>

1 澱みのないセリフの応酬による饒舌な筆致の瑕疵 「男を破滅させる女」 ―― このような女を、「ファム・ファタール」と言う。 ここに、ラストシーン近くに用意された短い会話がある。 「俺を愛してたのか?」 「人を愛したことなどないわ」 これが、ハリウ…

イースタン・プロミス('07)  デヴィッド・クローネンバーグ  <「全身ハードボイルドもどき」の男と、「聖母マリア」の距離が関数的に広がっていくだけの物語>

1 「全身ハードボイルドもどき」の男と、「聖母マリア」の距離が関数的に広がっていくだけの物語 本作に関しては、深読みするスノッブ効果は不必要である、というのが私の結論。 分りやす過ぎる映画だからだ。 「俺には両親はいません。これまで、“法の泥棒…

悪人('10) 李相日  <延長された「母殺し」のリアリティに最近接した男の多面性と、「母性」を体現した女の決定的な変容 ―― 構築的映像の最高到達点>

1 無傷で生還し得ない者たちの映画 言わずもがなのことだが、本作は、主要登場人物8人(祐一、光代、祐一の祖母、祐一の母、佳乃、佳乃の父の佳男、佳乃の母、増尾、)のうち、物理的に生還できなかった者(佳乃)を除いて、無傷で生還しなかった者は一人…

告白('10)  中島哲也 <ミステリー性に富み、比較的面白く仕上がったエンターテインメント>

1 「女性教諭」の衝撃的な告白 欺瞞的な「愛」と「癒し」で塗り固められた「お涙頂戴」の情感系映画が、もうこれ以上描くものがないという沸点に達したとき、その目先を変えるニーズをあざとく嗅ぎ取って、この国の社会が抱える様々なダークサイドの〈状況…

第9地区('09) ニール・ブロンカンプ <突貫精神の屈託のなさを全開させた、視覚情報効果のアナーキーな「初頭効果」のインパクト>

1 視覚情報のみを掻き立てる訴求力の高いコンテンツを供与した、「初頭効果」の戦略性が見事に嵌った映画 手を変え品を変え、より刺激的に視覚情報を与え続けることによってしか成立しなくなったハリウッドムービーが、遂に、このような形によってしか需要…

エイリアン1('79)  リドリー・スコット  <「無秩序な稜線伸ばし」を相対化し切ったSFゴシックホラーの凄味>

1 自己増殖する異界の完全生物との、閉鎖空間での戦争の果てに 内部で生産した工業製品の販売を目的にした民間のスペース・シャトル、それが宇宙貨物船ノストロモ号だった。 ところが、その宇宙貨物船が地球に向かって帰航中に、電算機(マザー・コンピュー…

やわらかい手('07)  サム・ガルバルスキ <「不健全な文化」を適度に包括する、「健全な社会」の大いなる有りよう>

1 「感動譚」を成就させる推進力として駆動させた文化としての「風俗」 難病と闘う孫を、その孫を愛する祖母が助ける。 「あの子のためなら何でもするわ。後悔なんて少しもよ。家くらい何なの」 冒頭シーンで、既に家を手放した祖母が、息子に吐露した言葉…

清瀬・我が町 錦繍の秋

ここに収められている画像は、2000年のガードレールクラッシュ以降、カメラを手に持つことができなくなった私に替わって、些か時間の余裕ができた妻が「清瀬・我が町」の目眩(めくるめ)く素晴らしい風景を、デジタルカメラ(パナソニックLumix)で撮っ…