2014-10-01から1ヶ月間の記事一覧

もう一人の息子(‘12) ロレーヌ・レヴィ<「イスラエル」という正の記号を奪われた若者と、「イスラエル」という負の記号を被された若者の寓話的統合の物語>

1 嗚咽を抑え切れない妻たちと、感情の炸裂を必死に抑える二人の夫 心に沁みる良い映画だった。 現実はこんなに甘くないことを知り尽くしてもなお、次世代のアクティブな若者たちに「希望」を繋ぐ映画を作らざるを得なかったロレーヌ・レヴィ監督の真摯な思…

ブロークン・フラワーズ(‘05) ジム・ジャームッシュ <鈍足の一歩を疾走に変換させた男の一瞬の煌めき>

1 以心伝心で行動が噛み合う親和性の高さ 久し振りに観て大満足した、ジム・ジャームッシュ監督の演出が冴えまくった映画。 あまりに面白過ぎた「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(1984年製作)のハードルが高過ぎたのか、それ以降の作品に、今一つ…

そして、私たちは愛に帰る(‘07) ファティ・アキン <水面に反射する陽光の眩い点景>

1 【イェテルの死】の章 ―― 父の子の決定的確執の果て 「あんたに求めることは二つだけ。わしと一緒に暮らし、寝るだけでいい」 この一言で全て決まった。 ハンブルクの大学で教授を務める一人息子・ネジャットの生後、半年後に逝去した妻の代わりに、同じ…

ヒッチコック(‘12) サーシャ・ガヴァシ <ヒッチコックの裸形の人間性を巧みに切り取り、紡いでいった物語の訴求力の高さ>

1 「ハリウッドは、私を受賞させないことに喜びを感じている」 「サスペンス映画の神様」と称されるアルフレッド・ヒッチコックが、次回作に選択した作品は、1957年11月に発覚した、「エド・ゲイン事件」のおぞましい犯罪を映画化することだった。 そ…