2013-10-01から1ヶ月間の記事一覧
1 数多の映画監督を周回遅れにさせる現代最高峰の映像作家 犬童一心監督の「ジョゼと虎と魚たち」(2003年製作)のように、完治なき障害を負っている者の、その日常性の現実の様態を全く描くことなく、まるで、「障害者の雄々しき自立」に振れていくよ…
序 忘れ難き一級の名画と出会ったときの情感の残像が騒いで こんな映画を観たいと切望して止まない映画と出会ったときの興奮と感動が、鑑賞後、何日経っても自分の脳裡に焼き付いていて離れない。 ここで提示された問題の多くは、人間の本質に関わる厄介なも…
1 「叙情」と「緊張」という二つの「視聴覚の刺激効果」を挿入する〈愛〉の揺曳 クレイジーラブやミラクルラブが溢れ返る映画に馴致し過ぎてしまうと、何とも退屈な映画にしか見えないことを再認識させられる一篇。 しかし、このような私的事情を抱える男女…
1 無残に朽ち果てた白骨の爛れ切った風景に呑み込まれて アジア・太平洋戦争末期のビルマ(現在のミャンマー)で、苛酷な行軍兵士たちの日本軍の小隊があった。 人格者然とした音楽学校出身の井上隊長の指揮下で、皆で合唱することで疲弊感を束の間忘れる方…
1 釣り堀で 不動産会社に勤務する近藤薫は、若いアベックに高層マンションの一室を案内するが、不調に終わり、バルコニーの窓を閉めたとき、ふぅっという溜息を洩らした。 このファーストシーンの何気ないカットの内に、30歳になって真面目に仕事する彼女…
1 「越えられない距離にある者」に対する、普通の人間のスタンスを越えたとき 「越えられない距離にある者」に対する、普通の人間のスタンスは二つしかない。 一つは、相手を自分と異質の存在であると考え、相対化し切ること。 例えば、「越えられない距離…
1 「骨のない手」の浮遊感覚を自浄させる、「異界のゾーン」での「モラトリアム期間」の物語 ―― その1 これは、良くも悪くも、「嘘だらけの外の世界」(世俗世界)の劣悪な環境に流され、浮遊していただけの思春期後期の時間の一部を切り取って、それを「…
1 「分りにくさ」と共存することの大切さ メキシコ出身のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の「バベル」(2006年製作)を観たとき、非常に遣り切れない思いに駆られた。 映画の中で強調される、独善的把握を梃子にして振りかぶった情感的視座…
1 「欠損感覚」を埋める、包括的で献身的な「愛情補償」 男は常に欠損感を抱えている。 この欠損感の大きさによって、男は「肯定的自己像」を結べない人生を繋いで生きている。 その欠損感のルーツがどこにあるか、映像は一貫して説明しないが、大抵、この…
1 激しい劣化から復元された「月世界旅行 カラー版」 「1902年。G・メリエス作の『月世界旅行』には、白黒とカラー版があり、世界中に広まった。1993年、紛失していたカラー版をスペインで発見。それは劣化が激しく、復元は困難を極めたが、現代の…
1 「世界が一つの大きな機械なら、僕は必要な人間だ」 「何にでも目的がある。機械でさえ。時計は時を知らせ、汽車は人を運ぶ。皆、果たすべき役割があるんだ。壊れた機械を見ると、悲しくなる。役目を果たせない。人も同じだ。目的を失うと、人は壊れてし…
1 今、まさに、防ぎようがない亀裂が入った「プライドライン」の防衛的武装の城砦 特定のフィールドで功なり名遂げた者が、そのフィールドで手に入れた肯定的自己像を放棄することが困難であるのは、その者が拠って立っていたフィールドの総体を否定するこ…