2016-02-01から1ヶ月間の記事一覧

自由が丘で(‘14)  ホン・サンス <そこだけは他者と共有できない「内なる時間」の絶対性>

1 「不在の女」と「常在の女」の間で浮遊する男の軽走感 「手紙を送ります。君に書いた手紙だからです。“親愛なるクォン。ソウル行きの機内にいる。すぐ会いに行くよ。機体が降下を始め、窓越しにはっきり地上が見える。空の光がとても美しい。たとえ会えな…

仮面ペルソナ(‘66)  イングマール・ベルイマン <映画作家の煩悶が集中的に外化し、模索する稀有なアーティストの映画論>

1 海辺の別荘を拠点にした女の真摯な「内的会話」の結晶点 「3カ月間、そのままで、あらゆる検査も受けた。精神的にも肉体的にも全く問題はなかった。ヒステリー発作でもない」 これは、舞台女優として地位を築いていたエリザベートが、突然、舞台の出演中…

第七の封印(‘56) イングマール・ベルイマン <虚無の地獄に喰い尽くされた者たちの、その終息点の風景の痛ましさ>

1 「ヨハネの黙示録」 ―― その冥闇の世界が開かれていく ベルイマン監督の映画は、いつ観ても素晴らしい。 経年劣化しないのだ。 常に、人間の普遍的テーマを問題意識のコアに据えて、それを的確に表現するアーティストとしての力量が、一頭地を抜いている…

利休にたずねよ(‘13) 田中光敏<「政治の世界の天下人」と「芸術世界の天下人」 ―― 加速的に累加された矛盾の最終炸裂点>

1 「ぬかづく茶人」に堕ちていく道を確信犯的に拒絶する男の物語 利休聚楽屋敷。 利休切腹の朝は嵐だった。 「茶人一人に、3000の兵を差し向けるとは・・・我が一生は一服の茶に己が全てを捧げ、ひたすら精進に励んできた。その果てが・・・天下を動かしてい…