2020-12-01から1ヶ月間の記事一覧

神々と男たち(’10)   グザヴィエ・ボーヴォワ

<死への恐怖、欺瞞・偽善と葛藤する時間を累加させた果てに、究極の風景を炙り出す> 1 クリスマスイブの夜、粛然と聖歌を唄う修道士たち スンニ派イスラム教の共和制国家・アルジェリア。 時代は、「暗黒の10年」と呼ばれるアルジェリア内戦の渦中にあ…

人生論的映画評論・続 ひつじ村の兄弟(‘15) 

<人間と羊の血統の絶滅が、併存する空間の渦中で同時に具現する> 1 持てる力の全てを出し切った男の震え声が、残響音となって、虚空に消えていく 「“氷河と火山の環境で生き抜いてきた羊ほど、この国で大きな役割を果たす存在はいない。何が起ころうとも、…

形容し難いほどのラストシーンの遣る瀬なさが、観る者の中枢を射抜く ―― 映画「帰れない二人」('18)  ジャ・ジャンクー

1 「ピストルは右手で撃った。私は左利きじゃない。忘れているのね」 山西省・大同(ダートン)、2001年4月2日。 雀荘・クラブを仕切り、裏社会で生きるビンが麻雀中に、「絶対に裏切らない」忠君・ 至誠の神・関羽像を持ち出し、借金取りの立てで揉…

危機意識の共有を崩す若手官僚の正義の脆さ 映画「新聞記者」('19)  藤井道人

1 煩悶する官僚 ―― 正義に駆られる記者 2月20日 2:14-千代田区 東都新聞・社会部。 無人のオフィスに複数枚のファックスが届く。 2:16-千代田区 吉岡宅。 テレビでは有識者たちのメディア論の座談会が映し出されている。 正確に言えば、「劇中…