2014-02-01から1ヶ月間の記事一覧
1 主題と構成が見事に融合し、均衡感を堅持した、邦画界での名画の誕生を告げる秀逸な一篇 特段にドラマチックな展開もない地味な物語の中で、歯の浮くような感傷譚を挿入することなくして、これだけの構築力の高い映画を作った石井裕也監督に最大級の賛辞…
1 実存的欠損感覚を持つ二人の男 実存的欠損感覚を持つ二人の男がいる。 一方の男は、不確実性の高い、見えにくい未来に向かうことで欠損の補填をしようと、辛うじて身過ぎ世過ぎを繋いでいる。 しかし、男の心奥に潜むトラウマが、いつもどこかで、その補…
1 「開き直った者の奇跡譚」という物語の基本骨格 本作の物語の基本骨格は、「開き直った者の奇跡譚」である。 「開き直った者の奇跡譚」には、物語の劇的変容の風景を必至とするだろう。 独断的に言えば、物語の劇的変容の風景を映像化するには、コメディ…
1 ブラックコメディの暴れようが、ヒューマンドラマに一気に回収されていく秀作 山下敦弘監督と共に、吉田大八監督は、私にとって、邦画界で最も愛着の深い映画監督である。 その殆ど全ての作品が好きな山下監督は別として、吉田監督はその明晰な頭脳で、巧…
1 「現代の青春」の空気感を鋭く切り取った青春ドラマの大傑作 映画を観ていて、涙が止まらなかったのは、いつ以来だろうか。 外国映画なら人間の尊厳を描き切った、ワン・ビン監督の「無言歌」(2010年製作)という生涯忘れ難い作品があるが、邦画にな…
1 「癒しの空間としての家族」という物語と、家族外人間関係における道徳観念が内包する欺瞞性 私たちが殆ど疑うことがない「癒しの空間としての家族」という物語と、とりわけ、この国において、家族外人間関係における道徳観念が内包する欺瞞性を、ブラッ…
1 非日常の「祭り」の世界に変換された「異文化交流」の物語 ここでは、殆ど大袈裟な事件・事故が惹起しない、緩やかに、淡々と進む映画のストーリーラインから書いていく。 以下、本篇の簡単な梗概。 3年前に、病気で妻を喪った、「林業一筋」の初老の男…
1 「距離の武術」としての「アイキ」の体現者 合気道―― 「理念的には力による争いや勝ち負けを否定し、合気道の技を通して敵との対立を解消し、自然宇宙との『和合』『万有愛護』を実現するような境地に至ることを理想としている。主流会派である合気会が試…
1 マキシマムにフル稼働させた「ナンセンス性」 私にとって、「単に面白いだけの映画」に過ぎない、この映画の異常な人気を考えてみたい。 それが本稿の目的である。 その一。 スラップスティックに内包される「ナンセンス性」を、マキシマムにフル稼働させ…
1 「全身映画的」なヒューマン・コメディの一代の傑作 良かれ悪しかれ、いつの時代でも、その時代の風景に見合った映画のサイズが存在することを慮(おもんばか)れば、本篇が、「映画命」と幻想し、その身を削っていた者たちが、なお命脈を繋いでいた、「…
1 兄 「不動産業界の会計は実にはっきりしている。ページにある数字を全部足せばいい。毎日、それできちんと帳尻が合う。総額はいつもパーツの合計だ。明朗会計。絶対的な数字が出る。でも俺の人生は、そうはならない。パーツが積み重ならず、バラバラだ。…
1 野心 1959年11月15日 グレートプレーンズの中枢に位置する、小麦畑が広がるカンザス州西部のホルカムで、その事件は起きた。 平原の一角の高台にある、富裕なクラッター家の家族4人が、惨殺死体で発見されたのである。 「間違いは正直に認めなき…