2013-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ジャッカルの日(‘73) フレッド・ジンネマン <「仕事」の頓挫が約束された疑似リアルの物語の途轍もない訴求力>

1 完璧な映画の、完璧な構成の、完璧な構築力 完璧な映画の、完璧な構成の、完璧な構築力。 長尺なのに飽きさせないのは、殆ど無駄な描写が削り取られているからだ。 完璧なプロなのに、最も肝心なところで認知ミスを犯してしまう。 完璧なプロもまた、人間…

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙(‘11) フィリダ・ロイド<「正しいと信じ切る能力の強さ」を具現化していった代償としての、支払ったものの大きさ>

1 「差別の前線」での「たった一人の闘争」を必至にする、「鉄の女」の誕生秘話 多様な経験の累加によって、自らの感情・行動傾向が継続力を持つ、構造化された安定的な認知に関わる確信幻想 ―― これを、私は「信念」と呼ぶ。 一切が幻想であると考える私に…

劒岳 点の記('09)  木村大作 <「仲間」=「和」の精神という中枢理念への浄化の映像の力技>

序 「誰かが行かねば、道はできない」 ―― 本作の梗概 「誰かが行かねば、道はできない。日本地図完成のために命を賭けた男たちの記録」 この見事なキャッチコピーで銘打った本作の梗概を、公式サイトから引用してみる。 「日露戦争後の明治39年、陸軍は国…

U・ボート(‘81) ウォルフガング・ペーターゼン <奇蹟の生還から、壮絶なラストシーンへの反転的悲劇のうちに閉じる映像の力技>

1 全身全霊を賭して動く人間の裸形の様態を描き切った大傑作 本作は、「戦場のリアリズム」が開いた極限状況の中で、不安に怯え、恐怖に慄きながらも、それでも、生還せんと全身全霊を賭して動いていく以外にない人間の裸形の様態を描き切った大傑作である…

キリング・フィールド('84) ローランド・ジョフィ  <「異文化を繋ぐ友情」 ―― 或いは「現代史が膨らませた負の遺産」>

序 実録映画に対する評価の難しさ この映画ほど、実録映画に対する評価の難しさについて痛感した作品はない。私は基本的にどのような映画作品も、そこに如何なる原作を下敷きにした作品であったにしても、その原作とは無縁に創作された表現作品として、それ…

鉄道員(ぽっぽや/'99) 降幡康男 <聖者の大行進>

「鉄道員」は、感動を意識させた原作と、同じく感動を意識させた映像が結合し、私には些か厭味な映画になった。 映画はとても良くできている。 完成度もそれなりに高いので、日本アカデミー賞を総舐めにした理由も納得できなくはない。 しかし、それらが却っ…

「生き方」とは自己を規定することである

人はなぜ、不安に駆られるのか。 失いたくないものを持ち、それを失ったらどうしようというイメージを作りだすことと、本当にそれを失ってしまうのではないかという思いが、一つの自我の内に共存してしまうからである。 この、失いたくないものを失うのでは…

恋愛ゲームの華麗な物語の残り火

恋愛を無邪気に語る者は、酔うことができる者である。 酔うことができる者は、酔わすことができると信じる者である。 人を酔わすと信じるから、語る者は語ることを捨てない者になる。 語ることを捨てないことによって、語り続けられることを信じる者になるの…

実に厄介なる生物体 ―― その名は「人間」なり

未踏の、豊饒な満足感に充ちた快楽との出会いは、それを知らなかったら、それなりに相対的安定の秩序を保持したであろう日常性に、不必要な裂け目を作るばかりか、それがまるで、魅力の乏しいフラットな時間に過ぎないことを、わざわざ自我に認知させ、自ら…

東京オリンピック(‘65) 市川崑 <オリンピックを人間の営みの一つとして描いた傑作>)より抜粋

1 東京の都市変革をリアルにイメージさせる「破壊」の風景から開かれる映画のインパクト 1964年。 経済協力開発機構 (OECD) への加盟が具現される背景の中で、世銀の融資を受けて東海道新幹線を開通させた年の、異次元的な都市建設の怒涛のラッシ…

父と暮らせば('04)  黒木和雄 <内側の澱みが噴き上げてきて>

1 「見える残酷」と、「見えない残酷」 「見える残酷」と、「見えない残酷」というものがある。私の造語である。 それは危害を加えた者と、危害を加えられた者との距離の概念である。その距離は物理的な落差であると同時に、意識の落差でもある。 その言葉…

ショーシャンクの空に('94) フランク・ダラボン <「希望」という名の人生の求心力、遠心力>

1 アーリー・スモール・サクセスを遥かに超えた、ビギナーズラックという最適消費点 人並みの希望を持ち、人並みの悲哀を味わって、日々に呼吸を繋ぐごく普通の人々が、その日常性の枠内で、心地良い刺激をごく普通に求めるとき、まさにそのニーズを保証す…

細雪(‘83) 市川崑<壊れゆく、ほんの少し手前の風景が一番美しい>

1 「世間智」と「世間無智」のコンフリクトの不毛性 昭和一桁の5年前、大阪市天王寺の上本町(船場から移転)で、古い暖簾を誇る蒔岡家に起こった忌まわしき事件。 それは、末娘で四女の妙子が、船場の貴金属商・奥畑の息子(啓ぼん)と引き起こした駆落ち…

人は犯した罪をどこまで贖うことができるのか ―― 映画「つぐない」が問う根源的提示

イギリスのジョー・ライト監督の映画「つぐない」(207年製作)を観たとき、「贖罪のプロセス」の重さ=「赦し」の重さというテーマについて深く考えざるを得なかった。 以下、拙稿・「人生論的映画評論・つぐない」をベースに、このテーマについて考えて…

博士の異常な愛情('63) スタンリー・キューブリック <「風刺」、或いは、「薄気味悪さ」や「恐怖」という、ブラックコメディの均衡性>

1 「R作戦」、「皆殺し装置」の発動、そして「優生思想」の突沸 何とも緩やかななメロディに乗って、空中給油シーンから開かれた長閑(のどか)な映像は、一転してハードな場面にシフトする。 米国の戦略空軍基地司令官であるリッパー将軍が、突然発狂し、…