2017-01-01から1年間の記事一覧

「雪の二・二六」 ―― 青年将校・その闘争の心理学

1 観念系で動く青年将校の支配の力学を超えていた 昭和10年8月12日、一人の男が陸軍省内の軍務局長室に押し入って、入室するや否や抜刀して、そこにいた軍務局長を袈裟懸けに斬り殺した。 斬殺された者は、永田鉄山少将。 時の軍務局長で、当時の軍部…

壊れゆく日々に、人は何ができるか  その2

1 「恐怖支配力」は不幸という集合的イメージを喰い尽くす 「明日」を考えることは、絶望の濃度を一日分深めるだけであり、「過去」を思うことは悔恨の念を増幅させるだけだった。 だから、私の想像力は、「今・このとき」の痛みを緩和する薬を飲むことであ…

「自由の使い方」を間違えなかった、「越えられない距離」にある男と女

1 日本と英国で期せずして出来したプリンセスの愛の行方 秋篠宮文仁親王(あきしののみやふみひとしんのう)と、同妃・紀子(きこ)さまの第1女子・眞子内親王(まこないしんのう)。 2017年12月現在、26歳の眞子さまは、現在、皇族女子の称号・…

白鷗バッシングに集合する、狭隘なる「縮み志向」のナショナリズム

1 「モンゴルに帰れ!」という、レッドラインを越えた偏頗なナショナリズムが空気を席巻した 白鷗バッシングが度を超えている。 根柢にモンゴル人力士差別が読み取れるので、これだけは看過できない。 事件の全容も判然としないにも拘らず、「白鵬の目配せ…

国連機関の勧告に抗し、我が国の死刑制度を迷いなく支持する

1 犯罪は、どこまで「親の責任」なのか 赤堀雅秋監督の「葛城事件」という凄い傑作を観ていたら、どうしても、死刑存廃問題について言及せずにはいられなかったので、「葛城事件」の自らの批評を援用し、改めて書くことにした。 「俺が一体、何をした!奴を…

壊れゆく日々に、人は何ができるか

1 神経が悲鳴を上げている。 今日という一日が、私の人生の全てである。 昨日もそうだった。 明日については、もう、私の予約はない。 今日と明日の間には、およそ、一年間にも及ぶような時間の隔たりがある。 だから、どうでもいいのだ。 今日というこの日…

葛城事件(’16) 赤堀雅秋 <歪に膨張した「近親憎悪」の復元不能の炸裂点>

1 家族の漂動の中枢に、「ディスコミュニケーション」の発動点になっている男が居座っていた 「その夜の侍」に次いで、またしても、赤堀雅秋監督は凄い傑作を世に問うてくれた。 心が震えるような感動で打ちのめされ、言葉も出ない。 5人の俳優の完璧な演…

一生を懸けた「仕事」を持つ男たちの物語

1 「俺のプロジェクト」を持つ男が、それを失った男の心に架橋していく 「そう。4千枚。皆、同じ場所の写真だ。俺のプロジェクトだ。一生を懸けた俺の仕事だ」 映画の中の、このセリフが大好きだ。 映画の名は「スモーク」。 1995年公開のアメリカ・日…

淵に立つ(’16)深田晃司 <「視界不良の冥闇の広がり」と「絶対孤独」〉

1 「彼のような人こそ、神様から愛されなければならないのに」 「視界不良の冥闇(めいあん)の広がり」と「絶対孤独」いう、人間の〈存在性〉の懐深(ふところふか)くに潜り込んでいる風景が、「異物」の侵入によって、寸断された時間の際(きわ)に押し…

菅野智之は日本球界で最強の投手である ―― 「10完投200イニング」を目標にする男の真骨頂

2 自らのピッチングスタイルの完成形を目指す男 以下、私が菅野智之に強く惹かれる理由を書いていきたい。 その1。 その瞬間、投手が輝く奪三振の魅力に取り憑かれることなく、「打たせて取る」という、一見、地味なピッチングスタイルに拘(こだわ)って…

「排除の論理」=「踏み絵」というラベリングが奏功し、「臨在感的把握」が決定的に反転する

1 「お任せ民主主義」が終焉して 2017衆議院総選挙が終わった。 概(おおむ)ね、事前の世論調査通りになった。 最も評価したいのは、各党の政策がすっきりした総選挙であったこと。 その意味で、日本の政治風土が変容していく第一歩であると考えたい。…

グループセラピーの生命線が、「野獣」と呼ばれた「怖いもの知らず」の若者の心を掬い上げていく

1 「愛着の形成」なしに、ごく普通のサイズの自我形成は望めない 胎児は人間の全ての感覚・意識・記憶力・感情を備えていて、既に自我のルーツが、9週目以降・出生までの胎児期にあることを論証したのはトマス・バーニー(アメリカの精神分析医)である。 …

菅野智之は日本球界で最強の投手である ―― 「10完投200イニング」を目標にする男の真骨頂

1 不名誉な「負け運」を払拭した絶対的エースの一気の跳躍 巨人の絶対的エース・菅野智之は、今や日本球界でNO.1の投手である。 私は、勝手にそう思っている。 何もかも素晴らしい。 特に、2017年の成績は圧巻である。 2年連続3度目の栄冠に輝く…

それまで手に入れた社会的な価値と、失ったものの精神的な価値の大きさが葛藤し、「約束された喪失感」に捕捉されていく

1 「正しいと信じ切る能力の強さ」を具現化していった代償としての、支払ったものの大きさ 「大切なのは、生き方よ」 彼女は、そう言い切った。 「“考え”が“言葉”になる。その“言葉”が“行動”になる。その“行動”が、やがて“習慣”になる。“習慣”が、その人の“…

日本国憲法の「平和主義」 ―― その「ダブルバインド状況」の居心地の悪さ

1 「ダブルバインド状況」の破壊力 アメリカの文化人類学者・グレゴリー・ベイトソンは、戦後まもなく、精神病棟でのフィールドワークで、患者さんの心身に惹起するプロセスの変化に注目し、その貴重な経験から「ダブルバインド理論」という、今では普通に…

映画「ブラス!」に見る怨嗟と甘えの構造

1 音楽文化の「進歩」の一つの結晶点としての「英国式ブラスバンド」 ここまで「サッチャリズム」への怨嗟を声高に叫ぶ映画を見せられると、その露骨なプロパガンダの政治的主張に辟易するが、失業に追いやられる炭鉱労働者の憤怒の情動を理解できなくもな…

映像化された「語りもの」の逸品が、奇跡的な「復讐・再会譚」として炸裂する

1 「盗賊の群れが津波のように荒し回らぬ夜はない」 網野善彦(中世日本史を専攻する歴史学者)が提唱した「荘園公領制」という重要な概念がある。 貴族や寺社、豪族などの私有地である荘園の広がりによって、律令国家の理想である「公地公民制」(全ての土…

「無償の愛」という幻想の本質は「ギブ&テイク」である

1 「無償の愛」という幻想の本質は「ギブ&テイク」である 「無償の愛」 ―― 相当に手垢がついた言葉だが、安楽死していない現実も頷(うなず)ける。 それを素朴に信じる人・信じたいと思う人が、世代を超えて繋がっているからである。 多くの宗教家は無論…

犯罪被害者のグリーフワーク ―― その茨の道の壮絶な風景

1 「犯罪被害者は泣き寝入りしてはならない」 「犯罪被害者等基本法」という法律がある。 「犯罪被害者等の多くは、これまでその権利が尊重されてきたとは言い難いばかりか、十分な支援を受けられず、社会において孤立することを余儀なくされてきた。さらに…

「蟻の一穴」から堤も崩れる

ムハンマド(マホメット)の血統重視のシーア派に対し、ムハンマドの教えを重視するスンニ派(スンナ派)のイスラム原理主義・ワッハーブ派を国教としているサウジアラビア。 言ってみれば、「コーラン至上主義」に拠って立っているが故に、サウド家の支配に…

グリーフワーク ―― 魂の中枢をくり抜く、その底知れない欠損感覚

1 心の傷が出口を塞がれ、内部で裂け目を強くし、心身の総体が捩れ切って変調していく 絶対に喪ってはならない特定他者を喪った時の衝撃は計り知れないだろう。 まして、その喪失が災害・事故・自殺などに起因する「突然死」だったら、残された者の衝撃は筆…

「夢を見る能力」の凄みが「夢を具現する能力」を引き寄せ、蓄電し、炸裂する

1 「夢を見る能力」と「夢を具現する能力」 私がよく使う言い回しだが、夢には2種類ある。 「夢を見る能力」と「夢を具現する能力」である。 「夢を見る能力」が「夢を具現する能力」にシフトするには、それまでの自己基準的なリアリズムの枠内では収まり…

「包丁侍」 ―― その真骨頂の凄み

「硬直した階級社会」と決めつけられる江戸時代にあって、能力主義が導入され、身分の低い幕臣でも有能であれば、昇進することを可能にする画期的な制度が導入されていた。 江戸幕府・8代将軍吉宗が導入した足高(たしだか)制が、それである。 1723 年…

白鵬は日本の大相撲界の救世主である

1 「離れてよし」・ 「組んでよし」という「安定的立脚点」に着地したと信じる男 勝負は一瞬で決まった。 世の大相撲ファンに鮮烈な印象を与えた取組は、白鵬と新関脇の勢(いきおい)の相撲。 2016年5月16日、夏場所(五月場所)でのことだ。 場所…

欲望の稜線が天を衝き、怒涛の逆巻く世紀の風景

1 「昔風」の社会は「当世風」の社会によってアウフヘーベンされていく 「今の世は最悪だ・・・・」・「今の若者はなってない・・・」という常套フレーズが、人類史を貫流させてきた現象の滑稽さを、私は今更のように感受する。 ここで私は、柳田国男の興味深い一…

教育とは自由の使い方を教えることである

1 よりマシな大人の介在が子供の〈自由〉を保証する 「子供の非行は全て大人が作る」という一般に流布された把握に、相当の真実性があることを認めることは、子供が「快・不快の原理」を延長させ、「好き放題」に生きるという立ち入り禁止の「子供共和国」…

振れ幅の大きい複雑な人間が縋り付く、ごく普通のサイズのヒューマニズムに収斂される「弱さの中のエゴイズム」 ―― 映画「羅生門」の本質

1 高貴な侍夫婦が深い森の奥を通りかかった時、その事件は起こった 邦画史上、最高の作品を選べと言われたら、私は躊躇なく、以下の3作を挙げるだろう。 成瀬巳喜男監督の「浮雲」・今村昌平監督の「赤い殺意」、そして、本稿で言及する黒澤明監督の「羅生…

それ以外にない場所を持ち、それ以外にない人生を生き、そして土に還っていく ――  或いは、共同体の底力

1 大旱魃から県民を救った讃岐農民の血の滲むような努力 瀬戸内海の小島に「農業滞在型農園施設」(ラントゥレーベン大三島=今治市滞在型農園施設)というスポットがあり、そこに都会生活をしていたプログラマーが移住し、3年間、島の人たちとの交流を通…

認知症罹患者の辛さの本質は、「約束された喪失感」を意識することの恐怖にある

1 「癌ならよかった。癌だったら恥ずかしくない。癌なら皆で、ピンクリボンをつけて、募金活動をするから、感じなくて済むわ」 日常生活に破綻をきたさない軽度認知障害(MCI)と切れ、ニューロン(脳の神経細胞)の脱落(人の脳の委縮は20~30歳を…

三段跳びをやってのけた男 ―― 文化大革命という狂気を越えて

1 三段跳びをやってのけた男 ―― 文化大 革命という狂気を越えて 蒋介石に忠誠を誓った国民党の青年将校がいた。 ソビエト連邦政府が支援する共産党との国共内戦での敗退によって、台湾に脱出した蒋介石に随行せず、同様に、国民党の軍人である叔父が殺害さ…