2012-07-31から1日間の記事一覧

裸の島('60)  新藤兼人 <耕して天に至る>

1 必要な時間に必要な動きを、必要なエネルギーによって日常性を繋いで 乾いた土 限られた土地 映画「裸の島」で、冒頭に紹介されるこの短いフレーズの中に、既に映画のエッセンスが語られている。 映画の舞台は瀬戸内海に浮かぶ、僅か周囲四百メールの小島…

十三人の刺客('10) 三池崇史 <てんこ盛りのメッセージを詰め込んだ娯楽活劇の「乱心模様」>

1 「戦争」の決意→「戦争」の準備→「戦争」の突沸という、風景の変容の娯楽活劇 この映画は良くも悪くも、物語をコンパクトにまとめることを嫌い、エンターテイメントの要素をてんこ盛りにすることを大いに好む映画監督による、力感溢れる大型時代劇の復権…

ユリシーズの瞳('96) テオ・アンゲロプロス <帰還の苛酷なる艱難さ――人間の旅の、終わりなき物語>

1 マナキス兄弟の映像を求めて 「魂でさえも、自らを知るには、魂を覗き込む――プラトン」 画面の黒に、プラトンの言葉が刻まれて、映像は開かれた。 その画面が切れて、サイレントの映像が映し出された。 「ギリシャ 1905年。マナキス兄弟が最初に撮っ…

つぐない('07)  ジョー・ライト <「贖罪」の問題に自己完結点を設定することへの映像的提示>

1 「贖罪」という名の作り話が閉じたとき 「1930年代、戦火が忍び寄るイギリス。政府官僚の長女セシーリアは、兄妹のように育てられた使用人の息子、ロビーと思いを通わせ合うようになる。しかし、小説家を目指す多感な妹ブライオニーのついたうそが、…

バベル('06) アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ <「単純化」と「感覚的処理」の傾向を弥増す情報処理のアポリア>

1 独善的把握を梃子にして振りかぶった情感的視座 モロッコで始まり、東京の超高層で閉じる物語。 モロッコに旅行に来たアメリカ人夫婦は、関係の再構築のために旅に出て、そこで難に遭う。 東京の超高層に住む父と娘は、関係の折り合いが上手に付けられな…