夏の夜は三たび微笑む('55) イングマール・ベルイマン <「非本来的な関係」の様態がシャッフルされたとき>

 1  「夏の夜の三度目の微笑よ」 ―― 物語の梗概



 「自分の家が、時々、幼稚園に思える」

 こんなことを吐露するフレデリック・エーゲルマンは、中年弁護士で、現在19歳の若妻アンとセックスなき生活の代償に、かつての恋人で、女優のデジレへの思いが捨て切れないでいる。

 「幼な妻に手を焼くのは、あなたの勝手よ」
 
  これは、フレデリックの愚痴を聞かされたデジレの切り返し。

 「私たちは友達だと思っていた」とフレデリック
 「あなたの友達は、あなた自身だけよ」とデジレ。
 
 デジレの家での、感情の齟齬(そご)を生じる二人の会話を中断させたのは、軍役に就くマルコルム伯爵。

 デジレの現在のパトロンである。

 「弁護士は全て寄生虫です」

 現役の軍人にストレートに本音を言われたフレデリックは、一瞬身構えるが、体よくデジレの家を追い出される始末。

 「あの豚が何をしようと平気よ。私も仕返しするわ。彼を憎んでいるの。男は自惚れが強くて、横柄で、汚らわしいわ・・・デジレは気丈で自立してるわ。デジレは恋の経験がないのよ。自分に恋してるだけ」

 これは、アンの友人であるマルコルム伯爵夫人シャーロッテが、デジレと夫の関係をアンから聞かされて、吐き出した悪口。

 こんなことがあって、まもなく、フレデリックとアンの夫妻、更に、義母のアンに恋心を抱く息子のヘンリックは、デジレのパーティに招待された。

 デジレの母親の別荘で開かれたパーティに招待されたのは、他にマルコルム伯爵夫妻がいて、いずれも夫婦関係、恋愛関係に不満を持つ連中である。

 伯爵夫人は夫との間で、フレデリックを誘惑できるか否かという酒宴の賭をする余興もあり、牧師を目指すヘンリックは、最後までパーティの雰囲気に溶け込めず、嫌気がさして抜け出してしまう始末。

 パーティを抜け出したヘンリックが別荘庭園で目撃したのは、女中のペトラと馭者の恋模様。

 ペトラに男女感情を抱きつつあった真面目な青年は、衝撃のあまり縊首を図るが、しくじってしまう。

 縊首する紐が切れてしまったのだ。

 その結果、密かに思いを抱くアンと結びつく顛末があったが、そこに巧妙なからくりが仕掛けられていたというオチがつくのは、如何にもコメディの自在なフリーハンドに因るもの。

 若さの勢いで、アンとヘンリックが駆け落ちをする現実を見て、今度はフレデリックが絶望感に打ちひしがれる。

 心の空洞を埋めるべく何もない状態で、フレデリックはマルコルム伯爵とロシアン・ルーレットによる賭けを行い、敗北する。

 その瞬間、拳銃が炸裂するが、フレデリックは煤だらけの顔を晒すばかり。

 拳銃には煤が詰めてあっただけで、実弾が装填されていなかったのだ。

 一切が終焉したのである。

 フレデリックはデジレとの関係を復元し、賭に勝った伯爵夫人は夫との関係を修復させるに至った。

 何もかも、フレデリックとの関係の復元を目途にしたデジレの策謀であった。

 そして、白夜の中で結婚を約束した二人の男女がいた。

 馭者と女中のペトラである。

 映像のラストシーン。

 「これが人生だ。こんな素晴らしいものはない!」
 「夏の夜の三度目の微笑よ」
 
 この馭者と女中の結婚の誓いによって、コメディタッチの映像が閉じていった。
 
 
 
(人生論的映画評論/夏の夜は三たび微笑む('55) イングマール・ベルイマン <「非本来的な関係」の様態がシャッフルされたとき>)より抜粋http://zilge.blogspot.com/2010/05/55.html