孤狼の血('18)  白石和彌

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<「正義」とは、「公正」の観念をコアにした、「ルールに守られ、秩序を維持し得る状態」である>

 

 

 

1  「警察じゃけぇ。何をしてもええんじゃ」

 

 

 

昭和63年4月

 

「昭和49年、呉原(くれはら)市の暴力団・尾谷(おだに)組に対し、広島市内に拠点を置く五十子(いらこ)会が、抗争をしかけた。所謂、『第三次広島抗争』である。多くの死傷者を出した報復合戦は、血で血を洗う泥沼の抗争に発展し、勝者なき結末を迎えた。あれから14年が経ち、ヤクザ組織が群雄割拠した世は、終わろうとしていた。しかし、呉原では、新たな抗争の火種がくすぶり始めていた。かろうじて生き延びた尾谷組の残党に牙を剥(む)いたのは、五十子会の下部組織の加古村(かこむら)組であった」(ナレーション)

 

昭和63年8月 呉原市

 

呉原東(ひがし)署のマル暴の刑事・大上(おおがみ/通称ガミさん)と、新米刑事の日岡(ひおか)。

 

日岡は、危ない捜査をする大上を監視するために、県警本部から送り込まれて来た。

 

この日は、呉原金融で失踪した経理係の上早稲(うえさわ)を探すため、大上の指示で日岡に加古村組の構成員・苗代(なわしろ)に喧嘩を売り、相手に暴行させ、公務執行妨害などの罪で居場所を吐かそうとするが、口を割ることがなく頓挫する。

 

「上早稲がおった呉原金融いうんはのぉ、加古村組のフロント企業暴力団の偽装企業)じゃ。べらぼうな利息で金貸して凌いでいるヤミ金で、加古村組の連中はそこで儲けた金ぶっこんで、尾谷組のシマを荒らしまわっちょる。ほっときゃ、戦争じゃ。その前に、何とか潰すんが、わしらの仕事じゃないんか…これは、ただの失踪事件と違う」

 

バディ(相棒)となるや、喧嘩を売らせて血塗れの表情を露わにする日岡に、謝罪もせずに、大上は言い放った。

 

二人は尾谷組を訪れた。

 

尾谷組長の留守を預かる若頭・一ノ瀬が、大上に噛みついていく。

 

「警察が加古村を野放しにしている以上、こっちもやるしかなぁ」

「野放しになんぞして、たまるか、ボケ。加古村を追い込むネタはもう掴んじょる…ちゃんと、作戦があるんじゃ」

 

これで収束し、構成員の一人が、金の入った封筒を大上に渡す。

 

それを目の当たりにして、驚く日岡

 

その後、尾谷組のシマ(縄張り)であるクラブ梨子(ママは里佳子)で、大上は一ノ瀬らと寛(くつろ)いでいた。

 

そこに、広島仁正会(じんせいかい)の五十子会・会長と、下部組織の加古村組長、その若頭・野崎らが、客として入って来た。

 

構成員同士が小競り合いするが、五十子会長が諫(いさ)め、大上は尾谷組のシマに入って来た五十子に警告を発するのみ。

 

日岡は自宅に戻ると、大上と尾谷組の癒着の一部始終を報告書に書き留めた。

 

大上は広島仁成会の配下の右翼団体・全日本祖国救済同盟の瀧井(たきい)を脅し、上早稲の情報を得る。

 

その情報を基に、上早稲が拉致される様子が映るビデオテープを入手したのである。

 

件(くだん)の情報も、放火・住居侵入など、相変わらず、大上の荒っぽい手法で得たもの。

 

日岡は苦言を呈すが、大上は全く意に介さない。

 

「尾谷組と加古村組の抗争を止めるには、尾谷組組長の説得以外にないと考え、大上は、鳥取刑務所へと向かった」(ナレーション)

 

鳥取刑務所に収監されている尾谷組長に面会した大上は、加古村を必ず追い詰めるので、今は動かぬよう説得し、了承を得た。

 

尾谷組長の言質を取ったことで、荒ぶる男・一ノ瀬を制止するが、大上は加古村を3日で落とすことを約束させられる。

 

日岡は、彼を内偵として送り込んだ広島県警の監察官の嵯峨警視に、大上に関わる報告に出向いた。

 

違法行為は明らかなので、直ちに処分するよう嵯峨(さが)に進言するが、実は14年前に起きた抗争事件で、殺された五十子会幹部の殺人に大上が関与していて、その調査が主目的だった事実を知らされる。

 

クラブ梨子のママ・里佳子(りかこ)が、愛人の尾谷組構成員・タカシを殺した加古村組の吉田を呼び出し、大上のいつもの手口に誘い込んでいく。

 

里佳子もまた、タカシを殺害された復讐のために大上と組んでいたのである。

 

「警察じゃけぇ。何をしてもええんじゃ」

 

女性の快感が増すという、陰茎に入れ込んだ真珠を切り取る荒っぽい拷問によって、上早稲の失踪の理由を吐かせるに至る。

 

それは、加古村組は、尾谷組を追い詰める資金が必要で、上早稲を甚振(いたぶ)って資金を捻出させていたが、上早稲が呉原金融の本店である、五十子会系の「ホワイト信金」(サラ金)にまで手を出したためだった。

 

かくて、上早稲の殺害現場である養豚場にやって来た大上と日岡

 

そこで、14年前の事件について日岡は追及すると、大上は涼しい顔をして答えた。

 

「わしら、食われる前に、食うしかないんじゃなぁーんか?」

 

薬物使用の、養豚場経営者の息子を連行し、大上は再び拷問して、上早稲の遺体が無人島に埋められているという言質を取るに至る。

 

「尾谷組との約束期限であるその日に、大上は遂に、上早稲二郎の遺体を発見した。呉原東署は、逃亡中の苗代広行ら4名を全国特別指名手配をすることになった。しかし、大上の思惑は一瞬にして崩れた。新聞記者からの情報提供を受けた署長の毛利は、大上を上早稲二郎殺害事件の捜査から外し、翌日からの自宅謹慎を命じた」(ナレーション)

 

大上が事件から外されたことで、呉原東署が尾谷組を見捨てたと判断し、一ノ瀬は抗争を開始する。

 

最も凶暴な尾谷組の構成員・永川が、加古村組幹部を襲撃した。

 

この事件に端を発し、大上と対立する主任巡査部長・土井は、尾谷組壊滅作戦を主導する。

 

「しかし、一ノ瀬守孝をはじめ、尾谷組幹部の姿は既になかった」(ナレーション)

 

尾谷組は、実行犯の永川を出頭させ、それをもって、大上は五十子会長に手打ちの話をつけに行く。

 

「条件は3つじゃ」

 

五十子が示した手打ちの条件は、以下の3点。

 

見舞金1000万円、尾谷組長の引退、そして、一ノ瀬の破門。

 

「条件が飲めんのなら、それまでじゃ。どっちかが壊れるまで戦争しちゃろうじゃないの」

 

大上は一ノ瀬に話をつけに行くが、ここでも「戦争はもう、始まっとるんで」と突っぱねられる。

 

再び、大上は収監されている尾谷組長の説得に行くが、そこでも断られる。

 

奔走する大上に、日岡はそろそろ身を引くように忠告するが、「わしはもう、綱の上に乗ってしもうとるんじゃ」という反応が返ってくるばかりだった。

 

「その夜を境に、大上は姿を消した。…その3日後、逃亡中の苗代広行、並びに3名が愛媛県内で逮捕された。苗代は、上早稲二郎の殺害、及び死体遺棄を認め、加古村組幹部の関与も供述した。呉原東署は、加古村組事務所への強制捜査に踏み切ることになった。署長の毛利は、上早稲二郎殺害事件の決着を宣言したが、依然として大上は行方知れずのままであった」(ナレーション)

 

 

人生論的映画評論・続: 孤狼の血('18)  白石和彌 より