ヤクザと家族 The Family ('21)   求めても、求めても得られない「家族」という幻想

1  「これで、家族だな」「親分、宜しくお願いします」

 

 

 

1999年。

 

覚醒剤の売買をシノギとしてきたヤクザの父親の葬儀に、バイクで駆けつけた山本賢治(以下、山本)。

 

顔見知りのマル暴の大迫(おおさこ)に声をかけられた。

 

「お前は、父親みたいになんじゃねぇぞ」

「おめえに関係ねぇだろ」

 

外で待っていた手下の細野と大原とを随行させ、バイクを走らせていると、車で覚醒剤を売っている男を発見する。

 

山本はその男を殴って覚醒剤の入ったバッグを奪い、現金だけ奪って海に投げ捨てる。

 

その金で、母と慕う木下愛子(以下、愛子。「オモニ」と呼ばれる)の韓国料理店で食事を摂る3人。

 

愛子の夫の木村は、以前、柴咲組(しばさきぐみ)の若頭だったが、抗争で命を落としている。

 

そこに柴咲組の組長・柴咲博が幹部の中村努らを連れ、会食のために入店して来た。

 

突然、武装した男たちが乱入して暴行し、柴咲に拳銃を向けた。

 

その様子を見ていた山本は、拳銃を向けた男の頭を鉄鍋で思い切り殴り倒す。

 

「おめえら、うるせぇんだよ!」

 

パトカーのサイレンが聞こえ、山本ら3人はそのまま逃走した。

 

翌朝、乱雑に散らかるアパートに戻った山本の元に中村が訪れ、組の事務所へ連れて行く。

 

待っていた柴咲が、昨日の礼を言うが、山本は「別にあんたら助けたわけじゃない」と素っ気ない。

 

「ヤクザにはならねぇよ」

「うちは、シャブには触らんよ」

 

山本の尖った態度にも、大らかに接する柴咲。

 

山本は柴咲の名刺を受け取り、帰途につくと、覚醒剤を奪ったことで侠葉会(きょうようかい)の組員に追い詰められ、激しい暴行を受ける。

 

若頭の加藤は覚醒剤を海に捨てたと知ると、山本ら3人を臓器売買に引き渡すため、港へ連行した。

 

そこで、山本が柴咲博の名刺を所持しているのを手下の川山が発見し、先年、手打ちにした柴咲組に疑義の念を抱く加藤は、柴咲が裏で糸を引いていると責めるのだ。

 

「柴崎組なんか、関係ねぇ。俺は、山本賢治だ!」

 

加藤は柴崎組に連絡を入れ、山本は柴崎の元に引き取られる。

 

「何か、えらく頑張ったらしいな、賢坊。行くとこあんのか、賢坊」

 

柴崎に優しく声をかけられた山本は、堰を切ったように号泣する。

 

これで腹が決まったのか、ヤクザ嫌いの山本は柴咲と「親子盃」を交わすのである。

 

「これで、家族だな」

「親分、宜しくお願いします」

 

かくて、ヤクザを拒絶してきたチンピラが、ヤクザの闇の世界に吸い込まれていくのだ。

 

【「親子盃」とは、親分と子分の関係を特定化し、親分に自分の命を預けるための儀式】

 

  

人生論的映画評論・続: ヤクザと家族 The Family ('21)   求めても、求めても得られない「家族」という幻想    藤井道人 より