1 「これで、家族だな」「親分、宜しくお願いします」
1999年。
覚醒剤の売買をシノギとしてきたヤクザの父親の葬儀に、バイクで駆けつけた山本賢治(以下、山本)。
顔見知りのマル暴の大迫(おおさこ)に声をかけられた。
「お前は、父親みたいになんじゃねぇぞ」
「おめえに関係ねぇだろ」
外で待っていた手下の細野と大原とを随行させ、バイクを走らせていると、車で覚醒剤を売っている男を発見する。
山本はその男を殴って覚醒剤の入ったバッグを奪い、現金だけ奪って海に投げ捨てる。
その金で、母と慕う木下愛子(以下、愛子。「オモニ」と呼ばれる)の韓国料理店で食事を摂る3人。
愛子の夫の木村は、以前、柴咲組(しばさきぐみ)の若頭だったが、抗争で命を落としている。
そこに柴咲組の組長・柴咲博が幹部の中村努らを連れ、会食のために入店して来た。
突然、武装した男たちが乱入して暴行し、柴咲に拳銃を向けた。
その様子を見ていた山本は、拳銃を向けた男の頭を鉄鍋で思い切り殴り倒す。
「おめえら、うるせぇんだよ!」
パトカーのサイレンが聞こえ、山本ら3人はそのまま逃走した。
翌朝、乱雑に散らかるアパートに戻った山本の元に中村が訪れ、組の事務所へ連れて行く。
待っていた柴咲が、昨日の礼を言うが、山本は「別にあんたら助けたわけじゃない」と素っ気ない。
「ヤクザにはならねぇよ」
「うちは、シャブには触らんよ」
山本の尖った態度にも、大らかに接する柴咲。
山本は柴咲の名刺を受け取り、帰途につくと、覚醒剤を奪ったことで侠葉会(きょうようかい)の組員に追い詰められ、激しい暴行を受ける。
若頭の加藤は覚醒剤を海に捨てたと知ると、山本ら3人を臓器売買に引き渡すため、港へ連行した。
そこで、山本が柴咲博の名刺を所持しているのを手下の川山が発見し、先年、手打ちにした柴咲組に疑義の念を抱く加藤は、柴咲が裏で糸を引いていると責めるのだ。
「柴崎組なんか、関係ねぇ。俺は、山本賢治だ!」
加藤は柴崎組に連絡を入れ、山本は柴崎の元に引き取られる。
「何か、えらく頑張ったらしいな、賢坊。行くとこあんのか、賢坊」
柴崎に優しく声をかけられた山本は、堰を切ったように号泣する。
これで腹が決まったのか、ヤクザ嫌いの山本は柴咲と「親子盃」を交わすのである。
「これで、家族だな」
「親分、宜しくお願いします」
かくて、ヤクザを拒絶してきたチンピラが、ヤクザの闇の世界に吸い込まれていくのだ。
【「親子盃」とは、親分と子分の関係を特定化し、親分に自分の命を預けるための儀式】
人生論的映画評論・続: ヤクザと家族 The Family ('21) 求めても、求めても得られない「家族」という幻想 藤井道人 より