2011-03-06から1日間の記事一覧

ボスニア('96) スルジャン・ドラゴエヴィッチ <憎悪の共同体の爛れ方―― 挑発的なる映像の破壊力>

1 “友愛と団結”トンネル(1) ―― そのストーリーを、映像の展開に合わせて詳細に追っていこう。 1971年6月27日。その日、“友愛と団結”トンネルの開通式が行われた。 「“自然には抗い難し”とは、誰の言葉か。またもや我が建設者の技術が岩に勝ち、我…

深呼吸の必要('04)  篠原哲雄 <「なんくるないさー」――予定調和の「青春爽快篇」が削りとったもの>

特別に主役のいない作品ながら、一応冒頭のシーンで紹介された少女が物語の中心にいて、そこに八人の主要登場人物が絡んでいく。その内二人は、「きび刈り隊」を受け入れる沖縄のとある離島の老夫婦。彼らは名を平良(たいら)と言い、皆からそれぞれ、「お…

わが命つきるとも('66) フレッド・ジンネマン <「肝心な局面で状況逃避できない自己像」が溶け切れない男>

本作は、スーパーマン映画のように見えるが、「真昼の決闘」がそうであったように、窮地に陥った状況弱者を救済するための闘いではなく、自らの人格の内に固められた自己像を守るための闘いを自己完結させた男の物語である。 従って本作が、英国国教会の成立…

レスラー('08)   ダーレン・アロノフスキー <「何者か」であり続けることを捨てられない男の究極の選択肢>

「俺は一世を風靡した栄光のプロレスラーだ」 このような「肯定的自己像」を抱懐する男がいる。 それから20年、男はその自己像を未だ捨てられない。 映像の冒頭で映し出された、「栄光の80年代」の絶頂期に象徴される「肯定的自己像」によって、継続的に…