2012-02-21から1日間の記事一覧

無法松の一生('58)  稲垣 浩 <「分」の抑制力を突き抜けたとき>

無教養だが、そんな男の侠気を示すエピソードが、映画の前半で紹介されている。 ロハで芝居を観に来た無法松が、「お前らが観るような芝居じゃない」と木戸番に追い返されたとき、男は啖呵を切った。 「俺は小倉の車引きぞ・・・小倉の車引きが小倉の芝居小屋で…

川の底からこんにちは('09)  石井裕也 <「深刻さ」を払拭した諦念を心理的推進力にした、「開き直りの達人」の物語>

1 「開き直った者の奇跡譚」という物語の基本骨格 本作の物語の基本骨格は、「開き直った者の奇跡譚」である。 「開き直った者の奇跡譚」には、物語の劇的変容の風景を必至とするだろう。 独断的に言えば、物語の劇的変容の風景を映像化するには、コメディ…

ドライビング Miss デイジー('89)  ブルース・ベレスフォード<「関係の濃密さ」を構成する要件についての映像的考察>

1 「関係の濃密さ」を構成する要件について そこに微妙な温度差を示しつつも、「関係の濃密さ」を構成する要件について、私は以下の因子を包含するものと考えている。 それぞれを列記すると、「親愛」、「信頼」、「礼節」、「援助」、「依存」、「共有」と…

普通の人々('80)  ロバート・レッドフォード <自我を不必要なまでに武装化して――或いは、グリーフワークの艱難さ>

序 骨の髄まで生真面目な筆致で貫徹した作品 この骨の髄まで生真面目な筆致で貫徹した作品を、アメリカの著名な映画俳優が片手間で作った映画であると見てはいけない。 これは紛れもなく、一人の有能な映像作家による作品なのだ。 片手間どころか、この映像…