2012-03-07から1日間の記事一覧

羅生門('50)  黒澤 明 <杣売の愁嘆場とその乗り越え、或いは「弱さの中のエゴイズム」>

1 杣売の呟き 物語を追っていこう。 時は平安時代。場所は京の都の羅生門(注1)。 度々の戦乱で、その門の外観は大きく崩れている。その崩れかけた一角を狙い撃ちするかのように、弾丸の雨が激しく叩きつけていて、その門下には、二人の男が雨宿りをしてい…

七人の侍('54)  黒澤 明 <黒澤明の、黒澤明による、黒澤明のための映画>

「戦国時代― あいつぐ戦乱と、その戦乱が生み出した野武士の横行。ひづめの轟(とどろき)が、良民の恐怖の的だった。その頃・・・」 これが、映画「七人の侍」の冒頭の説明文である。 時は15世紀、室町時代の後半、所謂、戦国時代である。 この時代、この国…

天国と地獄('63) 黒澤 明 <三畳部屋での生活を反転させたとき>

1 緊張感溢れるサスペンスフルな描写の連射 「ナショナル・シューズ」という製靴メーカーの権藤専務は、息子を誘拐したという電話を受けた。ところが、誘拐犯人である電話の男が誘拐した少年は、権藤家の運転手の息子。開き直った誘拐犯人の要求は、運転手…

野良犬('49)  黒澤 明  <「前線の死闘」、そして「平和の旋律」へ>

1 凶悪事件の暗い予感 映像にいきなり映し出される飢えた野犬の尖った視線、獲物を一撃で噛み殺してしまうような牙。 そこに「野良犬」という大きな字幕が映し出されて、「その日は恐ろしく暑かった」という導入が、観る者をサスペンスフルな映像に誘(いざ…