2012-04-23から1日間の記事一覧

カティンの森('07) アンジェイ・ワイダ <乾いた森の「大量虐殺のリアリズム」>

1 オープニングシーンンで映像提示された構図の悲劇的極点 「私はどこの国にいるの?」 これは、説明的描写を限りなくカットして構築した、この群集劇の中でで拾われている多くのエピソードを貫流する、基幹テーマと言っていい最も重要な言葉である。 この…

コルチャック先生('90) アンジェイ・ワイダ <せめてもの安らかな死――人間の尊厳の究極的な到達点を求めて>

序 人間の尊厳を失わずに生きることの意味 この映画は、死が日常化しているような苛酷な状況下で、人間の尊厳を失わずに生きることの意味を鮮烈に問いかけた一篇である。 それは最も大切なものを守るために、その大切なものを失ってまで守られることを拒んだ…

灰とダイヤモンド('58) アンジェイ・ワイダ <〈生〉と〈死〉を分ける禁断のラインを挟んで、一瞬交叉した、「ポーランドの悲劇」の象徴的構図>

ここに興味深い報告がある。 アンジェイ・ワイダが、如何にスターリン体制のソ連の管轄下にある検閲当局を潜り抜け、体制批判を盛り込める映像を作り出したかという報告である。 「映画監督アンジェイ・ワイダ ─― 祖国ポーランドを撮り続けた男」というNH…

地下水道('56) アンジェイ・ワイダ <「深い情愛」と「強い使命感」という、「情感体系」の補完による「恐怖支配力」>

1 「希望」に繋がる当てのない「出口」を模索する恐怖を抉り出した、究極の人間ドラマ 大脳辺縁系の扁桃体に中枢を持つ「恐怖」こそ、「喜び」、「怒り」、「悲しみ」、「嫌悪」と共に人間の基本感情であると言われるものだ。 「恐怖」は、自己防御と生存に…