2013-06-30から1日間の記事一覧

蛇イチゴ(‘03) 西川美和 <「嘘」と「真実」の間に揺れる人間の分りにくさを、決定的に反転された「立ち竦み」のうちに描いた傑作>

1 人間の「不完全性」を一つの家族に特化し、見事に構築した映像完成度の高さ 「デタラメ」な振舞いを最も厭悪する者が陥りやすい、「正義の罠」の反転によって、「立ち竦み」に振れる人間の「不完全性」を、舞台劇仕立てのミニサイズで一つの家族に特化し…

ゆれる('06)  西川美和 <微塵の邪意も含まない確信的証言者の決定的な心の振れ具合>

1 完全拒絶によって開かれた「事件」の闇 本作は、ある「事件」を契機に、雁字搦めに縛りあげていた「圧力的な日常規範」から、自我を一気に解放していく心的過程を辿っていく者と、自在に解放された世界で自己運動を繋いでいた自我が、その解放への起動点…

ディア・ドクター('09)  西川美和 <微妙に揺れていく男の脱出願望 ―― 「ディア・ドクター」の眩い残影>

1 男の脱出願望と、感謝の被浴による快楽との危うい均衡 必ずしも、本作の主人公である「『善人性』を身体化するニセ医者」のバックボーンが明瞭に表現されていないが、私なりにイメージする、件の「ニセ医者」の心理の振れ具合に焦点を当てて書いてみよう…