2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

捩れ切った関係交叉の齟齬が生む「もどかしさ」 ―― 映画「よこがお」('19)の訴求力の高さ   深田晃司

1 クラクションを鳴らし続ける女の復讐譚 現在と過去の時間を往還する映画。 ここでは、できる限り時系列を追って書いていく。 まず、「過去のパート」から。 主人公は、訪問看護師として働く平川市子。 大石家の末期癌を患う祖母・塔子(とうこ)を担当し…

たかが世界の終わり('16)   グザヴィエ・ドラン

<家族という〈抉られた傷痕〉への帰還 ―― 恐怖突入するゲイ作家の覚悟と沈默> Ⅰ 「私たちは、あなたがくれる時間を恐れてる」 「あれから10年が過ぎた。正確には12年だ。12年の空白のあと、怖れを抱きながらも、僕はあの人たちに、再び会おうと決め…

ゼイン ―― その魂の叫び 映画「存在のない子供たち」('18)が訴えた「児童婚」・「児童売買」の陰惨な風景 ナディーン・ラバキー

<ゼイン ―― その魂の叫び> 1 「僕を産んだ罪」で両親を訴える少年 レバノンの首都ベイルート。 そこに広がるスラム街に、仲間たちと煙草を分け合い、戦争ごっこに興じるゼインが住んでいた。 本作の主人公である。 そのゼインは殺人未遂事件を起こし、5…

断片でなければ、現実は理解できない ―― 『71フラグメンツ』・映画の構造を提示するハネケ映像の圧倒的な凄み

<断片でなければ、現実は理解できない。断片からでなければ、現実は理解できない> 【震えを覚えるようなハネケ映像の大傑作。本稿では、71に断片化し、提示された映像を順繰りに追っていく】 1 無差別乱射事件を起こした大学生 ―― その収束点に集合する…

香港死す ―― 習近平政権の人権抑圧の悍ましさ

1 「消息不明」という薄気味悪さが浸潤している 「闘い続ける必要がある。一番恐ろしいのは中国政府だ。我々にとっては、生きるか死ぬかの状況だ」 匿名を条件に訴えた某教師の言葉である。 然るに、これは、実弾まで使用するに至った、香港警察の圧力によ…