1 「妙な連中ばかりさ。俺以外の黒人もだ」
夜道に迷った黒人男性が、ゆっくりと歩調に合わせて走る不審な車に気づき、最初は知らん顔して歩き続けようとしたが、「襲われたら最後だ。逃げるぞ」と呟き、来た道を戻るが、何者かに襲われ車で連れ去られた。
カメラマンのクリス・ワシントン(以下、クリス)は、恋人ローズ・アーミテージ(以下、ローズ)の両親に紹介されるために、出かける支度をしながら、自分が黒人であることを話したかとローズに問う。
「両親に反対され、銃で追い返されるかも」
「オバマに3期目があればパパは投票してる。熱心な支持者よ…パパ、ただ社交的じゃないだけ。差別主義者じゃない」
ローズの運転で実家に向かう森の中の道を走っていると、横切ってきた鹿と衝突して衝撃を受け、ローズは車を停止した。
クリスは森の中で鹿が横たわるのを見て、かつて交通事故で喪った母親のことを思い出し、物思いに耽っている。
警察官が運転していなかったクリスにまで免許証の提示を求めてきたので、ローズは言われた通り出そうとするクリスを止めさせ、その必要ないと抗議してクリスを守る。
再び運転して実家に着くと、ローズの脳神経外科医の父・ディーンと、精神科医の母・ミッシーはクリスをハグして歓待し、ディーンは家の中をクリスに案内して回る。
そこで、壁に飾ってある家族写真を差しながら、祖父がアスリートで、最終選考で敗北したJ・オーエンスがベルリン五輪大会で優勝し、その会場にはヒトラーがいたと話す。
「ヒトラーは白人の優越性を証明したかったが、この黒人男性は奴が間違いだと世界に証明」
そして、母親が愛したというキッチンを案内したディーンは、そこに立っている使用人のジョージナにクリスを紹介する。
庭に出ると、庭の管理人の黒人男性・ウォルターがクリスの方を見たところで、ディーンは、クリスが「“白人家庭に黒人の使用人たち。典型的だ”」と思っただろうと弁明する。
「彼らを雇ったのは、親の介護のためだが、親が死んでも解雇する気になれなくてね。それでもやはり、人目は気になる」
「分かります」
「オバマに3期目があれば、投票してるよ。素晴らしい大統領だ」
「同感です」
庭でテーブルを囲んでお茶をしながら、ディーンがクリスに両親のことを訊ねた。
「父とは疎遠で、母は僕が11歳の時に死んだ」
「残念ね。死因は?」とミッシー。
「ひき逃げ」
「可哀そうに…」
「当時のことは、あまり記憶になくて…」
禁煙中のクリスが我慢している様子がディーンに伝わり、ミッシーに治してもらえと勧める。
「方法は?」
「独自の催眠療法。魔法のように効く」とディーン。
クリスは「遠慮しておきます」と断った。
「それより、君を親睦会に呼べてうれしいよ」とディーン。
「何の親睦会?」とクリス。
「ローズの祖父のパーティーよ」とミッシー。
「聞いてないわ」とローズ。
ジョージナがジュースを注いで回り、クリスのグラスに入れながら、ふと気を逸(そ)らして零しそうになり、それを見たミッシーがジョージナに休むようにと促す。
団欒の場で酔っ払ったジェレミーが、子供の頃、柔道をやっていたと言うクリスに絡む。
「柔道?その体格と遺伝子構造だ。本気で鍛えれば、訓練次第だがな、とんでもない野獣になる…」
2階の部屋でローズは家族への不満をクリスにぶつける。
「パパは黒人を気取るし、何よ、あの口調。使い慣れてないのに、今じゃ口ぐせ。ママはジョージナにキツいし、ありえない。うちの家族もあの警官と同類。余計ガッカリよ」
ベッドに入ったクリスは、森の中で見た撥ねられ横たわる鹿にハエがたかっているのを想像する。
眠れずに起きたクリスは外へ出て煙草を吸おうとすると、全速力でウォルターがクリスの横を走り抜けて行った。
窓辺にジョージナが立っているのを見て、一驚(いっきょう)を喫するクリス。
部屋に戻ろうとすると、ミッシーに呼び止められ、改めて禁煙を勧められた。
ミッシーは母親のことを聞き、紅茶の砂糖をスプーンで掻き回して、クリスに催眠術をかけていく。
母親が戻らなかった雨の日、何もせずテレビを観て動こうとしなかったのことを思い浮かべ、涙を流すクリス。
体が動かなくなり、底に沈んでいくクリス。
ミッシーに目を閉じられるや否や、クリスは夢から覚め、ベッドから跳ね起きた。
翌日、クリスはカメラを持って家の周りで写真を撮っていると、上階の窓にジョージナが鏡の前でひたすら髪を整えているのが見えた。
カメラを向けズームアップしたら、突然こちらを向いたので、すぐカメラの方向を変えた。
次にクリスは薪を割っているウォルターに声をかけ、挨拶をすると、昨夜のことを驚かせたと詫び、「成功した?」と尋ねてきた。
ウォルターはミッシーから催眠術をかけられたことを知っていたのだ。
続々と白人たちが集合し、車から降りた招待客を、ウォルターはハグして歓待する。
ローズは親睦会にウンザリと言いながら、クリスには笑顔を通すように求め、次々に招待客を紹介する。
誰もがクリスと笑顔で接するが、明らかに黒人を意識した言動や振る舞いが見られた。
「それにしても、ハンサムね」と言って筋肉を触り、「強いの?」ローズに聞く中年女性。
「白い肌が好まれたのはこの200年ほどか、だが流行は繰り返す。時代は黒だよ」と初老の男。
リベラルぶってみせるが、クリスはカメラを撮って来ると言って、その場を離れた。
クリスはファインダー越しにパーティーの参加者を覗いて、その中に一人の黒人を見つけた。
「黒人がいて心強い」と声をかけると、振り返った男は「ええ、確かに」と答えたが、その仕草に違和感を覚えるクリス。
ローガン・キングと名乗るその黒人の元に、パートナーの中年婦人が近づき、その黒人を連れて別の招待客のところへ連れて行く。
少し離れた場所で椅子に座る杖を持った盲目の男。
「無知だ」
「誰が?」
「全員。口先だけで人の苦しみを分かってない。(私は)ジム・ハドソンだ」
「クリス」
「知ってる。君のファンだよ。いい目をしてる」
「まさか。ハドソン画廊のオーナー?」
「盲目の美術商への皮肉はよしてくれよ」
家の中に戻り、2階へ階段を上って行くと、招待客全員が、その足音に耳を傾け、耳を澄ませ、クリスの挙動に注目する。
部屋に戻ると、携帯の充電器の線が抜かれ、それをジョージナのせいだとローズに話すクリス。
「嫌がらせさ」
ローズは呆れて部屋を出て行く。
クリスは親友でローズとも顔見知りのTSA(運輸保安庁)に勤務するロッドに電話をかけ、様子を話す。
「まるで見せ物だな」
「妙な連中ばかりさ。俺以外の黒人もだ」
そして、精神科医のローズの母親から催眠術を受け、禁煙が成功したことを報告する。
「それ、ヤバくないか。奴らに操られるぞ…」
「ノーマルな家族だ」
電話を切ると、突然、後ろからジョージナが声をかけ、「無断で所有物に触った」と謝ってきた。
「いや、とまどっただけだ」
「でも保証します。変なことはしていない」
掃除中に充電器から線が抜けたと説明したジョージナに、クリスは「チクらない」と答えた。
「誰の下でもない」とジョージナ。
「へえ。(俺は)時々なるんだ。白人だらけで神経質に」
その言葉を聞いて、ずっと笑顔だったジョージナの顔が急に曇って、泣き出しそうになるのを押し殺し、無理に笑顔を作りながらも、目から涙が零れ落ちる。
続けて、声を上げて笑い、「ノーノーノー…」と繰り返す。
「変わった人。私は経験ないわ。一度もね。アーミテージ家はよくしてくれる。家族のようにね」
そう言い残してジョージナは部屋を出て行った。
「ブキミな女だ…イカれてる」
庭に出ると、集まっている招待客を、ディーンがクリスに次々に紹介していく。
「みなさん、どうも」とクリスは笑顔で挨拶する。
タナカという男が訊ねた。
「アフリカ系アメリカ人は、有利かな?それとも、現代社会では不利かな?」
「どうだろ」
そこにローガンが通りかかり、クリスは声をかける。
「アフリカ系の経験を語れよ」
「おやおや。アフリカ系に生まれて私はほぼ満足だ。ただ詳しくは語れないよ。家から出たいとは思わなくてね…」
クリスは携帯を取り出し、話をしているローガンの写真を撮る。
フラッシュが光り、驚いたローガンの顔から鼻血が流れ出る。
「出ていけ」
震えながらクリスに言い放つローガン。
「ごめん」
更に「出ていけ!とローガンが叫びながらクリスに向かって胸倉を掴むが、ローガンはジェレミーに抑えられ引き離された。
「発作で不安になり攻撃的に」とディーンがクリスに説明する。
「それで無差別に襲う?」とローズ。
「無差別じゃない。君のフラッシュが刺激した」
妻に支えられてローガンが来て、落ち着いたとクリスに謝罪した。