風景への旅

 「青梅市の市街地から北方には、霞丘陵自然公園がなだらかに広がり、周辺には史跡が多く点在し、なかでも塩船観音寺は1300余年の歴史を今に伝える古刹で、つつじ、あじさい、はぎ、秋桜など四季折々の花が咲く花の寺としても広く知られ、多くの観光客が訪れます。塩船観音寺では、5月3日に柴燈護摩供火渡り荒行修行が行われますが、時を同じくし境内を埋め尽くす約2万本のつつじが満開となった風光は、見事としか言いようがありません」

 これは、一般社団法人青梅市観光協会事務局の、HPでの紹介文。

 「『花の寺 塩船観音寺』のイメージを定着させたのが、『つつじ』です。つつじの植栽は昭和41年に始まり、昭和43年に第1回つつじ祭が行われました。年々つつじ園の整備は進み、護摩堂弘誓閣を囲むすり鉢状の斜面には、約15種類17000本が咲き競います。平成23年には塩船平和観音落慶、園内整備完成により、つつじ園に更なる魅力が追加されました。春のつつじに続き、初夏のあじさい、やまゆり、秋の彼岸花、萩の花と、季節の移り変わりの中、四季折々の花々が参詣する人々のこころを和ませてくれます」

 これは、真言宗醍醐派別格本山である、「塩船観音寺」のHPの紹介文の一節。

 「ツツジ寺」として名高い、塩船観音のツツジの大群落。

 広い境内の高みから俯瞰する風景は圧巻だった。

 様々に咲き揃うツツジの微妙な色合いの変化を、丸ごと捕捉できる風景美に殆ど言葉を失うほどだ。

 5月中旬にピークアウトを迎える頃には、「塩船観音のツツジ」へのツアーが群れを成して、まさに人込みの中を縫うように散策する園内のコースの煩雑ぶりに、些か匙を投げたい気分を手伝って、しばしば、「もう来るのは止めよう」などと思ってみたりもする。

 しかし、そのような気分を払拭させるに足る求心力が、関東平野西部に広がる武蔵野の洪積台地の限定的なスポットにはあった。

 一度見たら忘れない壮観な風景美が、風薫る初夏の心地良き気分に誘(いざな)われて、結局、毎年のように、この地を訪ねることを止められなくなっていく。

 その年のその時期にしか出会えない、一期一会の邂逅への至福の感覚記憶が、花紀行を止められない者たちの心の襞(ひだ)にべったりと張り付いているのだろうか。

 こうしていつも、私は「風景の旅人」のリピーターになっていく。

 だから、遥々、他県の「花名所」を訪れる必要もない。

 極端に言えば、私には、東京と埼玉の、荒川と多摩川に挟まれた地域に広がる武蔵野の洪積台地に散在する、有名無名の「花名所」を訪ねるだけで充分に自足してしまうのだ。

 この写真ブログでも、大半が東京と奥武蔵の風景写真で埋まっていることを、今更ながら実感し、如何に自分が、このエリアから離れることに特段の魅力を感じていなかったことが判然とするのである。

 都内の有数の公園や、この塩船観音のような青梅各所の「花名所」、更に、八王子と高尾のサクラの名所、そして、私が最も好きな奥武蔵への集落・低山徘徊さえ可能なら、もうそれで充分なのだ。

 清瀬という、典型的な武蔵野の一角に住んでいる私にとって、武蔵野の雑木林に抱かれて、そこで季節の移ろいを味わう心地良さは、そこに住んでみなければ分らないと思えるほどの自分サイズの快感でもあった。

 閑話休題

 そんな武蔵野のサクラの名所として名高いのは、滝川城址(八王子市)のサクラと、旧「浅川実験林」こと、現在の多摩森林科学園(八王子市)。

 とりわけ、後者は、多種にわたるサクラ保存林の壮観な風景が眼を奪うビュースポット。

 各種合わせて、約1700本の桜が植えられている当園では、都心部ソメイヨシノの開花時期よりも半月ほど遅れて次々に咲いていくので、ちょうど最盛期は4月中旬頃になるだろう。

 JR高尾駅北口から徒歩約10分の場所に、これほどの美観が得られる僥倖に感謝しつつ、多くの入園者の混雑覚悟で、4月を3回くらいに分けて通い続けたものである。(トップ画像は、塩船観音のツツジ

 
 
[ 思い出の風景 風景への旅    ]より抜粋http://zilgf.blogspot.com/2011/07/blog-post_16.html