武蔵野春爛漫(その1)

 「神代植物園のハナモモ園」

 私の最も好きなハナモモの樹木がピンクや赤、白の色をつけて咲き揃う4月中旬は、ソメイヨシノが散った後の眩いばかりの新緑を借景にして、私には、そこだけが目立って、陽春の季節を演出している主役のように見えるのである。

 同時期に一斉に花をつける、ボリューム感満点のサトザクラの迫力に圧倒されることなく、この公園の目立たないほどの狭隘な一角で、「神代植物園のハナモモ園」は、「光の春」と「気温の春」の格好のシンボルとして自己表現しているように見えるのだ。

 このハナモモの咲く、僅かな「花名所」への撮影行は、殆ど、私の代え難い嗜癖であると言っていい。

 だから、このハナモモが、集落の其処彼処(そこかしこ)で咲き乱れる奥武蔵への徘徊は、そんな私の嗜癖の頂点であると思っている。

 そして、茨城県古河市にある古河総合公園。

 広義に言えば、東京都と埼玉県にまたがる洪積台地である「武蔵野」とは言えないが、この都市公園(「都市公園法」に基づき、国、都道府県、市区町村が管理する公園)こそ、私が知る限り、関東近県で咲くハナモモ園の最高のビュースポットである。

 「江戸時代初期、古河城主土井利勝(どいとしかつ)が、江戸で家臣の子供たちに桃の種を拾い集めさせ、古河に送って農民に育てさせたのが始まりです、領地では、燃料となる薪が乏しかったので、成長が早く、果実が食料となる桃が選ばれました。明治時代には、花見シーズンに臨時列車が運行されるほど賑わいました。 古河市では開園を機に、花桃(花を観賞するための桃)を植えて桃林を復活させました」

 これは、古河総合公園の公式サイトの一文。

 「公園のモモが散ったときの美しさは見事ですよ」。

 これは、「古河総合公園ののハナモモ園」を訪ねたときに乗車した、タクシーの運転手の言葉。
 
 その言葉を聞いて、私は無性に「散りモモ」の写真を撮るために、この公園に行きたいと思い、毎年、そのチャンスを窺っていたが、結局、この夢は実現できずに終わってしまった。

 返す返すも、口惜しい気持ちで一杯である。(トップ画像は、古河総合公園のハナモモ)
 
 
[ 思い出の風景 武蔵野春爛漫(その1)  ]より抜粋http://zilgf.blogspot.com/2011/06/blog-post_25.html