ムーンライト('16)   男らしさという絶対信仰が溶かされていく

  • リトル

 

 

 

フロリダ州マイアミ。

 

悪ガキたちに追いかけられ、廃墟のアパートに逃げ込んで来た黒人少年シャロン

 

その様子を見ていた麻薬売人のフアンが廃墟を訪れ、隠れているシャロンを食事に誘う。

 

警戒して黙っているシャロンを自宅へ連れて行き、一緒に暮らす恋人のテレサに託すが、やはりしゃべろうとしない。

 

夕食を食べるシャロンを見て、フアンが「食う時だけ口が動くな」と笑う。

 

「大丈夫よ。気が向いたらしゃべって」とテレサ

「名前はシャロン。あだ名は“リトル”」

 

下を向いたまま、シャロンがやっと口を開いた。

 

リバティーシティアメリカ最悪の街)に、母ポーラと暮らしているというシャロン

 

家に送ってほしいか訊ねられると、「いやだ」と答える。

 

一晩泊めたシャロンを家に送ると、ポーラが帰宅して来た。

 

自分が世話をした事情を話したフアンに、素っ気ない態度で接するポーラ。

 

仲間たちのサッカーの遊びの輪に入らず、一人離れていくシャロンを、友達のケヴィンが追いかけて来た。

 

「イジメられて平気か?」

「何で?」

「抵抗しない」

「どうするんだよ?」

「タフなところを奴らに見せろ」

「僕はタフだ」

「知ってるよ。でも奴らに分からせないと。そうだろ。毎日イジメられたいか?」

 

徐にケヴィンの頭を抱え、取っ組み合いが始まる。

 

家にフアンがやって来て、シャロンを海へ連れて行き、泳ぎを教えるのだ。

 

「感じるか?地球の真ん中にいる」とシャロンを支え、海に浮かせるフアン。

 

「覚えておけよ。世界中にいるぞ。最初の人類は黒人だ。俺はこの街に長い。出身はキューバ。知らないだろうが、キューバは黒人だらけだ。俺もガキの頃はお前みたいなチビで、月が出ると裸足で駆け回ってた。あるとき、ある老女のそばを、バカやって叫びながら走り回ってた。老女は俺をつかまえて、こう言った。“月明かりを浴びて走り回ってると、黒人の子供が青く見える。ブルーだよ。お前をこう呼ぶ。ブルー”」

「名前がブルーなの?」

「いいや。自分の道は、自分で決めろよ。周りに決めさせるな」

 

家に送ると、ポーラが乱暴にシャロンを家に入れ、ヤクをやっている男を奥の部屋へ押し込めた。

 

フアンが街路で仕事中、見慣れない車が停車し、近づき覗くと、車内でヤク漬けになっている男とポーラが目に飛び込んだ。

 

「ここから消えろ!」

「うちの子を育てる気?私の息子を?やっぱり、図星ね」

「母親だろ!」

「私にヤクを売ってるくせに!…私はあんたから買う。それでもシャロンを育てる?あの子の歩き方を見た?」

「黙ってろ」

「イジメの理由をあの子に言える?あんたはクソよ」

 

フアンはそれ以上何も言えなかった。

 

家に帰ったポーラに冷たい視線を向けるシャロンに、ポーラが何かを叫ぶ。

 

シャロンはフアンの家を訪ねた。

 

「“オカマ”って何?」“オカマ”

「ゲイを不愉快にさせる言葉だ」  

 

「僕は“オカマ”?」

「違う。もしゲイでも、“オカマ”と呼ばせるな」

「自分で分かる?」

「ああ。たぶん」

「そのうちね」とテレサ

「今すぐ分からなくていい」

「ヤクを売ってるの?」

「ああ」

「僕のママは、ヤクをやってるのよね?」

「ああ」

 

シャロンは無言で席を立って、フアンの家を出ていった。

 

ヤク漬けの母にうんざりする少年の思いが捨てられたのである。

 

  

人生論的映画評論・続: ムーンライト('16)   男らしさという絶対信仰が溶かされていく  バリー・ジェンキンス より