- リトル
フロリダ州マイアミ。
悪ガキたちに追いかけられ、廃墟のアパートに逃げ込んで来た黒人少年シャロン。
その様子を見ていた麻薬売人のフアンが廃墟を訪れ、隠れているシャロンを食事に誘う。
警戒して黙っているシャロンを自宅へ連れて行き、一緒に暮らす恋人のテレサに託すが、やはりしゃべろうとしない。
夕食を食べるシャロンを見て、フアンが「食う時だけ口が動くな」と笑う。
「大丈夫よ。気が向いたらしゃべって」とテレサ。
「名前はシャロン。あだ名は“リトル”」
下を向いたまま、シャロンがやっと口を開いた。
リバティーシティ(アメリカ最悪の街)に、母ポーラと暮らしているというシャロン。
家に送ってほしいか訊ねられると、「いやだ」と答える。
一晩泊めたシャロンを家に送ると、ポーラが帰宅して来た。
自分が世話をした事情を話したフアンに、素っ気ない態度で接するポーラ。
仲間たちのサッカーの遊びの輪に入らず、一人離れていくシャロンを、友達のケヴィンが追いかけて来た。
「イジメられて平気か?」
「何で?」
「抵抗しない」
「どうするんだよ?」
「タフなところを奴らに見せろ」
「僕はタフだ」
「知ってるよ。でも奴らに分からせないと。そうだろ。毎日イジメられたいか?」
徐にケヴィンの頭を抱え、取っ組み合いが始まる。
家にフアンがやって来て、シャロンを海へ連れて行き、泳ぎを教えるのだ。
「感じるか?地球の真ん中にいる」とシャロンを支え、海に浮かせるフアン。
「覚えておけよ。世界中にいるぞ。最初の人類は黒人だ。俺はこの街に長い。出身はキューバ。知らないだろうが、キューバは黒人だらけだ。俺もガキの頃はお前みたいなチビで、月が出ると裸足で駆け回ってた。あるとき、ある老女のそばを、バカやって叫びながら走り回ってた。老女は俺をつかまえて、こう言った。“月明かりを浴びて走り回ってると、黒人の子供が青く見える。ブルーだよ。お前をこう呼ぶ。ブルー”」
「名前がブルーなの?」
「いいや。自分の道は、自分で決めろよ。周りに決めさせるな」
家に送ると、ポーラが乱暴にシャロンを家に入れ、ヤクをやっている男を奥の部屋へ押し込めた。
フアンが街路で仕事中、見慣れない車が停車し、近づき覗くと、車内でヤク漬けになっている男とポーラが目に飛び込んだ。
「ここから消えろ!」
「うちの子を育てる気?私の息子を?やっぱり、図星ね」
「母親だろ!」
「私にヤクを売ってるくせに!…私はあんたから買う。それでもシャロンを育てる?あの子の歩き方を見た?」
「黙ってろ」
「イジメの理由をあの子に言える?あんたはクソよ」
フアンはそれ以上何も言えなかった。
家に帰ったポーラに冷たい視線を向けるシャロンに、ポーラが何かを叫ぶ。
シャロンはフアンの家を訪ねた。
「“オカマ”って何?」“オカマ”
「ゲイを不愉快にさせる言葉だ」
「僕は“オカマ”?」
「違う。もしゲイでも、“オカマ”と呼ばせるな」
「自分で分かる?」
「ああ。たぶん」
「そのうちね」とテレサ。
「今すぐ分からなくていい」
「ヤクを売ってるの?」
「ああ」
「僕のママは、ヤクをやってるのよね?」
「ああ」
シャロンは無言で席を立って、フアンの家を出ていった。
ヤク漬けの母にうんざりする少年の思いが捨てられたのである。