2011-02-14から1日間の記事一覧

マッチ工場の少女('90) アキ・カウリスマキ <「語り」を削り取ることで露わになる、人間社会の裸形の現実>

本作の基調音は、アンデルセン童話として有名な、「マッチ売りの少女」の悲劇をなぞるものである。 1本のマッチも売れない少女が、「役立たず!」と叱られる父親の恐怖に慄き、幻影の中で至福のひと時に浸った末に、全てのマッチを燃え尽くして死体と化した…

さよなら子供たち('88) ルイ・マル <厳冬の朝の残酷―「秘密の共有」が壊されたとき>

突然、親独義勇兵が家宅捜査の名目で、学校にやって来た。 「入る権利はない。ここは私立学校だ。子供と修道士しかいない」 ジャン神父が拒んでも、強権的に侵入する親独義勇兵を、誰も止められない。それを見た一人の教師は、全員で運動中の列の中からジャ…

ディア・ドクター('09) 西川美和 <微妙に揺れていく男の脱出願望 ―― 「ディア・ドクター」の眩い残影>

必ずしも、本作の主人公である「『善人性』を身体化するニセ医者」のバックボーンが明瞭に表現されていないが、私なりにイメージする、件の「ニセ医者」の心理の振れ具合に焦点を当てて書いてみよう。 今や認知症となっているが、かつて医師であった父を持つ…