2011-03-10から1日間の記事一覧

その土曜日、7時58分('07) シドニー・ルメット <「失敗は失敗のもと」という負のスパイラル――自壊する家族の構造性>

1 兄 「不動産業界の会計は実にはっきりしている。ページにある数字を全部足せばいい。毎日、それできちんと帳尻が合う。総額はいつもパーツの合計だ。明朗会計。絶対的な数字が出る。でも俺の人生は、そうはならない。パーツが積み重ならず、バラバラだ。…

コルチャック先生('90) アンジェイ・ワイダ <せめてもの安らかな死――人間の尊厳の究極的な到達点を求めて>

1939年9月、ドイツのポーランド侵攻によって第二次世界大戦が始まった。それでなくても辛い歴史を重ねてきた歴史は、呆気なくドイツの機甲戦団に制圧され、占領統治下に入っていく。 このとき、コルチャック61歳。 逼迫する孤児院の経営を運営するた…

チャドルと生きる('00)   ジャファル・パナヒ <危機感に関わる熱量自給を再生産する映像作家の気概>

1 西側諸国での公開を前提化する映像作家の状況性 ―― その1 西側諸国において、女性の人権蹂躙と指弾されるが故に、恐らく、西側での公開を前提にするような内容の物語があり、そんな物語をテーマにすることを使命にするかの如き映像作家がいて、その映像…

花様年華('00)  ウォン・カーウァイ <最近接点に達した男と女の、沸騰し切った〈状況〉のうちに>

物理的距離を近接させた、男と女がいる。 右手にポットを下げて、麺や惣菜等を買いに行く、チャイナドレスが眩い女と、キャリアウーマンの妻を持つが故に、夕飯を食べに行く男が出会う屋台での、日常的な交叉がリピートされ、物理的距離を近接させていくのだ…