1 「いいユダヤ人もいるんでしょ?」「もし、君がいいユダヤ人に出会ったら、それこそ世界一の探検家だ」
軍人の父・ラルフの昇進で田舎へ引っ越すことになったブルーノの家族。
ベルリンを離れる前に昇進祝いのパーティーが盛大に行われた。
遊び盛りのブルーノは、友達との別れを惜しみつつ、一家は列車で田舎に向かった。
到着した家は、立派だが殺風景な建物で、絶えずラルフの部下の軍人たちが出入りしている。
ブルーノは窓から見える“農場”の子供と遊ぶと母・エルサに言いつつ、「もう少し調べてから」と付け加えた。
子供ながらに、その“農場”に住んでいる人たちが変だと感じているのである。
ラルフに様子を聞かれ、ブルーノはベルリンに帰りたいと話す。
「ここが家だ。家族のいるところが家だ。ブルーノ。住めば気持ちも変わる。すぐに慣れて…」
「みんな、パジャマを着てる。窓から見える」
「それは、あの者たちは、ちゃんとした人間じゃない…私のここでの仕事は、おまえや国のために大事な仕事なのだ。彼らも国をよくするために働いている」
「でもパパは軍人でしょ?」
エルサが話をそらすために、ブルーノに手伝いを促す。
「あの子たちと遊んでいいよね?」
「やめたほうがいいわ。やっぱり変わってるから。私たちと違う。心配ないわ。友達を見つけてあげる。普通の子たちを」
ブルーノを行かせた後、エルサはラルフに「遠くだと聞いていたのに」と不満をぶつけた。
「そうだ。ここから見えるなんて」
「キッチンにもいるわ」
いつも一人遊びをしているブルーノは退屈で、裏庭に続く小さな戸を開け入って行ったが、すぐにエルサに止められた。
ある日、古いタイヤでブランコを作るため、タイヤを欲しいとコトラー中尉に頼むと、家の雑務をしているユダヤ人に命令し、ブルーノを裏庭の納屋に案内させた。
タイヤで作ったブランコに乗っていると、木立の合間に黒い煙が見えてきた。
ブランコから落ちてしまったブルーノは、そのユダヤ人に手当てをしてもらう。
ブルーノが名前を訪ねると、“パヴェル”と答えた。
エルサが帰って来たら、医者に行くと話すブルーノに、パヴェルは「必要ない」と答える。
「ほんとは大ケガかも」
「いや」
「医者でもないくせに」
「…医者だ」
「イモの皮をむいてて?」
「診療をしてた。ここへ来る前は」
「じゃあ、だめな医者だったんだ」
「…君は大人になったら、何になる?知ってる。探検家だ」
「知ってるの?農場は楽しい?」
そこにエルサが帰って来て、ブルーノのケガを見て驚いて理由を聞き、ブルーノを部屋へ行かせた後、エルサはパヴェルに「ありがとう」と礼を言った。
姉・グレーテルとブルーノの家庭教師であるリスト先生が訪問し、冒険本しか読んでいないブルーノにドイツ年鑑の本を渡す。
退屈なだけの日々に飽きたブルーノは本を読むのを止め、生来の冒険好きの思いを行動に結んでいく。
裏庭を抜け、小屋の窓から外へ飛び出していったのだ。
森を抜け、“農場”の方へ向かうと、有刺鉄線が張り巡らされており、近づくと縞模様のパジャマを着た少年が座っていた。
ブルーノは少年に話しかけると、その少年は同じ8歳で名前をシュムールと言った。
「ずるいな。僕はうちで一人きり。君はそこで友達と遊べて」
「遊ぶ?」
「だって、その番号。何かの遊びだろ?」
「僕の番号だ。みんな番号を持ってる」
そこに号令の笛が鳴り、シュムールは慌てて戻って行く。
「会えてよかった。シュムール」
「僕もだ。ブルーノ」
ブルーノはお腹が空いていると話していたシュムールのために、チョコレートを持って会いに行ったが、その日は会えなかった。
エルサが町へ出かけた隙に、またシュムールに会いに行った。
「なんで一日中パジャマ着てるの?」
「パジャマじゃない。僕たちの服を取られたから」
「誰に?」
「兵隊…兵隊、嫌い。君は?」
「大好きだ。パパは軍人だ。服を取るような兵隊じゃない…大事な仕事をしてるんだ。みんなのために国をよくしてる。君んちは農家?」
「パパは時計職人。前はね。今はクツの修理ばかり」
「大人なのに、したいことができないなんて…もう一つ聞いていい?煙突、何燃やしてるの?」
「知らない。あっちへは行けない…ママは古着だって」
「何だか、ひどいにおいだ」
チョコを忘れたブルーノは、「今度うちへ晩ごはんに来ればいい」と誘うと、シュムールは有刺鉄線があるから無理だと答える。
「家畜が逃げないためだろ?」
「家畜?人間が逃げないためだ」
「君もだめなの?何をしたの?」
「ユダヤ人だから」
ブルーノは反応する言葉を失い、帰って行く。
エルサがグレーテルの部屋に入ると、壁にヒトラーを礼賛するポスターが貼られ、ナチスに傾倒している様を見て不安に思う。
家庭教師のリストからの洗脳教育に疑問を覚える母。
いつものように、リストはユダヤ人排斥の考えを押し付けようとすると、ブルーノは反発して質問する。
「いいユダヤ人もいるんでしょ?」
「もし、君がいいユダヤ人に出会ったら、それこそ世界一の探検家だ」
そう言われたブルーノは、シュムールを思い浮かべながら目を輝かせる。
早速、ブルーノはお菓子をカバンに詰めて持ち出し、シュムールに差し出すと貪り食べた。
一方、車から降りたエルサは煙の臭いに顔をしかめる。
「やつら、燃やすとよけいに臭い」
既知の情報であるという前提で口走ったこのコトラーの一言で、エルサの心は凍り付く。
その件について、エルサは収容所長である夫ラルフを問い質す。
「これは極秘なんだ…命にかけて他言しないと誓ったのだ…エルサ、君も思いは同じだろ。」
「いいえ。ラルフ、あんなことはだめ!よくも、あんな…」
「私は軍人だ。戦争で戦うのだ」
「あれが戦争?」
「戦争の一部だ。重要な一部だ!我々が望む祖国を作るためには、こういう仕事も必要なんだ」
近づくラルフに「来ないで!」と泣き叫ぶエルサ。
そこに、ブルーノが祖父の訪問を知らせに来た。
祖父とコトラーを交えての夕食の席で、実はコトラーの大学教授の父がスイスに亡命していることが分かると、ラルフは報告義務を果たさなかったことを正し、苛立つ。
気まずい様子のコトラーは、パヴェルがワインを注ごうとしてグラスを倒したことで、そのフラストレーションをパヴェルにぶつけ、殴りつけてしまう。
ラルフもコトラーも、その苛立ちをより下の者に向かって発散させるのだった。
エルサはラルフを促したが、コトラーを止めようとしなかった。
グレーテルに“農場”のことを知ってるかと訊ねたら、ユダヤ人の強制収容所であると聞かされた。
「ユダヤ人は敵よ。危険な害虫だわ」
特殊な状況下にある家族の風景から、温もりがあるコミュニケーションが希薄になっていくのだ。
人生論的映画評論・続: 縞模様のパジャマの少年('08) 友情を繋ぐ冒険の危うい行方 マーク・ハーマン