縞模様のパジャマの少年('08)   友情を繋ぐ冒険の危うい行方

 

1  「いいユダヤ人もいるんでしょ?」「もし、君がいいユダヤ人に出会ったら、それこそ世界一の探検家だ」

 

 

 

軍人の父・ラルフの昇進で田舎へ引っ越すことになったブルーノの家族。

 

ベルリンを離れる前に昇進祝いのパーティーが盛大に行われた。

 

遊び盛りのブルーノは、友達との別れを惜しみつつ、一家は列車で田舎に向かった。

 

到着した家は、立派だが殺風景な建物で、絶えずラルフの部下の軍人たちが出入りしている。

 

ブルーノは窓から見える“農場”の子供と遊ぶと母・エルサに言いつつ、「もう少し調べてから」と付け加えた。

 

子供ながらに、その“農場”に住んでいる人たちが変だと感じているのである。

 

ラルフに様子を聞かれ、ブルーノはベルリンに帰りたいと話す。

 

「ここが家だ。家族のいるところが家だ。ブルーノ。住めば気持ちも変わる。すぐに慣れて…」

「みんな、パジャマを着てる。窓から見える」

「それは、あの者たちは、ちゃんとした人間じゃない…私のここでの仕事は、おまえや国のために大事な仕事なのだ。彼らも国をよくするために働いている」

「でもパパは軍人でしょ?」

 

エルサが話をそらすために、ブルーノに手伝いを促す。

 

「あの子たちと遊んでいいよね?」

「やめたほうがいいわ。やっぱり変わってるから。私たちと違う。心配ないわ。友達を見つけてあげる。普通の子たちを」

 

ブルーノを行かせた後、エルサはラルフに「遠くだと聞いていたのに」と不満をぶつけた。

 

「そうだ。ここから見えるなんて」

「キッチンにもいるわ」

 

いつも一人遊びをしているブルーノは退屈で、裏庭に続く小さな戸を開け入って行ったが、すぐにエルサに止められた。

 

ある日、古いタイヤでブランコを作るため、タイヤを欲しいとコトラー中尉に頼むと、家の雑務をしているユダヤ人に命令し、ブルーノを裏庭の納屋に案内させた。

 

タイヤで作ったブランコに乗っていると、木立の合間に黒い煙が見えてきた。

 

ブランコから落ちてしまったブルーノは、そのユダヤ人に手当てをしてもらう。

 

ブルーノが名前を訪ねると、“パヴェル”と答えた。

 

エルサが帰って来たら、医者に行くと話すブルーノに、パヴェルは「必要ない」と答える。

 

「ほんとは大ケガかも」

「いや」

「医者でもないくせに」

「…医者だ」

「イモの皮をむいてて?」

「診療をしてた。ここへ来る前は」

「じゃあ、だめな医者だったんだ」

「…君は大人になったら、何になる?知ってる。探検家だ」

「知ってるの?農場は楽しい?」

 

そこにエルサが帰って来て、ブルーノのケガを見て驚いて理由を聞き、ブルーノを部屋へ行かせた後、エルサはパヴェルに「ありがとう」と礼を言った。

 

姉・グレーテルとブルーノの家庭教師であるリスト先生が訪問し、冒険本しか読んでいないブルーノにドイツ年鑑の本を渡す。

 

退屈なだけの日々に飽きたブルーノは本を読むのを止め、生来の冒険好きの思いを行動に結んでいく。

 

裏庭を抜け、小屋の窓から外へ飛び出していったのだ。

 

森を抜け、“農場”の方へ向かうと、有刺鉄線が張り巡らされており、近づくと縞模様のパジャマを着た少年が座っていた。

 

ブルーノは少年に話しかけると、その少年は同じ8歳で名前をシュムールと言った。

 

「ずるいな。僕はうちで一人きり。君はそこで友達と遊べて」

「遊ぶ?」

「だって、その番号。何かの遊びだろ?」

「僕の番号だ。みんな番号を持ってる」

 

そこに号令の笛が鳴り、シュムールは慌てて戻って行く。

 

「会えてよかった。シュムール」

「僕もだ。ブルーノ」

 

ブルーノはお腹が空いていると話していたシュムールのために、チョコレートを持って会いに行ったが、その日は会えなかった。

 

エルサが町へ出かけた隙に、またシュムールに会いに行った。

 

「なんで一日中パジャマ着てるの?」

「パジャマじゃない。僕たちの服を取られたから」

「誰に?」

「兵隊…兵隊、嫌い。君は?」

「大好きだ。パパは軍人だ。服を取るような兵隊じゃない…大事な仕事をしてるんだ。みんなのために国をよくしてる。君んちは農家?」

「パパは時計職人。前はね。今はクツの修理ばかり」

「大人なのに、したいことができないなんて…もう一つ聞いていい?煙突、何燃やしてるの?」

「知らない。あっちへは行けない…ママは古着だって」

「何だか、ひどいにおいだ」

 

チョコを忘れたブルーノは、「今度うちへ晩ごはんに来ればいい」と誘うと、シュムールは有刺鉄線があるから無理だと答える。

 

「家畜が逃げないためだろ?」

「家畜?人間が逃げないためだ」

「君もだめなの?何をしたの?」

ユダヤ人だから」

 

ブルーノは反応する言葉を失い、帰って行く。

 

エルサがグレーテルの部屋に入ると、壁にヒトラーを礼賛するポスターが貼られ、ナチスに傾倒している様を見て不安に思う。

 

家庭教師のリストからの洗脳教育に疑問を覚える母。

 

いつものように、リストはユダヤ人排斥の考えを押し付けようとすると、ブルーノは反発して質問する。

 

「いいユダヤ人もいるんでしょ?」

「もし、君がいいユダヤ人に出会ったら、それこそ世界一の探検家だ」

 

そう言われたブルーノは、シュムールを思い浮かべながら目を輝かせる。

 

早速、ブルーノはお菓子をカバンに詰めて持ち出し、シュムールに差し出すと貪り食べた。

 

一方、車から降りたエルサは煙の臭いに顔をしかめる。

 

「やつら、燃やすとよけいに臭い」

 

既知の情報であるという前提で口走ったこのコトラーの一言で、エルサの心は凍り付く。

 

その件について、エルサは収容所長である夫ラルフを問い質す。

 

「これは極秘なんだ…命にかけて他言しないと誓ったのだ…エルサ、君も思いは同じだろ。」

「いいえ。ラルフ、あんなことはだめ!よくも、あんな…」

「私は軍人だ。戦争で戦うのだ」

「あれが戦争?」

「戦争の一部だ。重要な一部だ!我々が望む祖国を作るためには、こういう仕事も必要なんだ」

 

近づくラルフに「来ないで!」と泣き叫ぶエルサ。

 

そこに、ブルーノが祖父の訪問を知らせに来た。

 

祖父とコトラーを交えての夕食の席で、実はコトラーの大学教授の父がスイスに亡命していることが分かると、ラルフは報告義務を果たさなかったことを正し、苛立つ。

 

気まずい様子のコトラーは、パヴェルがワインを注ごうとしてグラスを倒したことで、そのフラストレーションをパヴェルにぶつけ、殴りつけてしまう。

 

ラルフもコトラーも、その苛立ちをより下の者に向かって発散させるのだった。

 

エルサはラルフを促したが、コトラーを止めようとしなかった。

 

グレーテルに“農場”のことを知ってるかと訊ねたら、ユダヤ人の強制収容所であると聞かされた。

 

ユダヤ人は敵よ。危険な害虫だわ」

 

特殊な状況下にある家族の風景から、温もりがあるコミュニケーションが希薄になっていくのだ。

 

人生論的映画評論・続: 縞模様のパジャマの少年('08)   友情を繋ぐ冒険の危うい行方  マーク・ハーマン