2011-03-21から1日間の記事一覧

石中先生行状記(「千草ぐるまの巻」)('50)  成瀬巳喜男 <共同体を繋ぐ天使―「ナチュラル・スマイラー」の底力>

青森県のとある田舎の長閑な一本道を、岩木山神社(注1)の村祭りの行列が練り歩いている。 その光景を満面の笑みで迎える少女、ヨシ子。 彼女はこの日、町の病院に姉のカツ子を見舞いに行くところである。 ヨシ子は、広々とした田舎道の一角にある茶屋の女…

おくりびと(‘08)  滝田洋二郎<差別の前線での紆余曲折 ―-「家族の復元力」という最高到達点>

1 情感系映像の軟着点 2007年の邦画界の不調を見る限り、邦画人気のバブル現象を指摘する論調があって、「邦画の再立ち上げは容易でなさそうだ」(「asahi com」2008年03月04日)と書かれる始末だった。 ところが、翌2008年の全国…

大阪物語('99)  市川準<「散文系のリアリズム」の鈍走劇に弾かれて>

1 「不思議空間」としての「大阪」 「大阪って可笑しいとこで、一遍…一旦、ここ大阪に生まれたら、大阪を離れんの、いやになるんねん。どうしても大阪に居ついてしまう。大阪が好きになんねんな。何でやろうな…ほんまにええとこや、大阪て」 この元女芸人の…

髪結いの亭主 ('90)  パトリス・ルコント <「死への誘(いざな)い」へと最近接する、「吸収するパワー」としての「愛のパワー」>

「結婚して下さい」 一見(いちげん)の客に過ぎない男は、理髪店を譲り受け、それなりに成功しているように見える女に対して、唐突にプロポーズした。 髪に触れる手触りに異常な執心を持つフェティシストの男にとって、「髪結いの亭主」になることだけが少…