2011-03-26から1日間の記事一覧

女が階段を上る時('60)  成瀬巳喜男   <女が手に入れたもの、失ったもの>

「秋も深い、ある午後のことだった。昼のバーは、化粧をしない女の素顔だ」 銀座のバー、「ライラック」の雇われマダムである圭子のモノローグから始まる映像は、化粧をしない女たちの昼の饒舌から開かれる。マダムの不在なその店で、ホステスの一人が店の客…

ライフ・イズ・ビューティフル('98)  ロベルト・ベニーニ  <究極なる給仕の美学>

1 軽快な映像の色調の変容 一人の陽気なユダヤ人給仕が恋をして、一人の姫を白馬に乗せて連れ去った。映画の前半は、それ以外にない大人のお伽話だった。 お伽話だから映像の彩りは華やかであり、そこに時代の翳(かげ)りは殆ど見られない。 姫を求める男…

トゥルーマン・ショー('98)  ピーター・ウィアー <コメディラインの範疇を越える心地悪さ ―― ラストカットの決定力>

「他の番組を。テレビガイドは?」 ラストカットにおける視聴者の、この言葉の中に収斂される文脈こそ、この映画の全てである。 テレビ好きな二人の警備員によるこの台詞は、本作がテレビの虚構性を極限まで描き切った映画であることへの、それ以外にない決…