2011-05-05から1日間の記事一覧

定着への揺らぎと憧憬―「寅さん」とは何だったのか

序 ――「反近代」の庶民の旗手として どこかで、誰かが、強烈なイメージを漂わせながら、異議申し立てをして欲しかった。 過激派ではなく、狂信者ではなく、もっと遥かに世俗の匂いを嗅がせるキャラクターこそ求められた。高度成長の澎湃(ほうはい)はかくも…

霧の中の風景('88) テオ・アンゲロプロス  <始めに混沌があった>

闇が支配する部屋の小さなベッドに身を埋めて、11歳の姉が5歳の弟に、この夜も「創世記」をコンパクトになぞった物語を語っていた。 姉の名はヴーラ。弟の名はアレクサンドロス。就寝を確かめに来た母親の足音に、今夜もまた姉の語りが千切れてしまった。…