2012-06-05から1日間の記事一覧

シン・レッド・ライン('98)  テレンス・マリック<「一本の細く赤い線」――状況が曝け出した人間の孤独性についての哲学的考察>

序 「戦争神経症」という名のPTSD 太平洋戦争末期の沖縄戦に、「シュガーローフの戦い」(注1)という名の激戦があった。その壮絶なる戦闘の中で、決して少なくない数の若き米兵たちが、戦争に対する恐怖感から次々に精神を病んで、その治療を専門とする…

シンドラーのリスト('94)  スティーブン・スピルバーグ <英雄、そして権力の闇>

1 歴史の重いテーマの映像化の中で不要な、「大感動」のカタルシス効果 ポーランドで軍用工場を経営していたオスカー・シンドラーは、ユダヤ人会計士の協力を得て、ゲットーのユダヤ人を工場労働者として集め、好業績を挙げた。 複数の愛人と関係し、放恣…

第9地区('09)  ニール・ブロンカンプ <突貫精神の屈託のなさを全開させた、視覚情報効果のアナーキーな「初頭効果」のインパクト>

1 視覚情報のみを掻き立てる訴求力の高いコンテンツを供与した、「初頭効果」の戦略性が見事に嵌った映画 手を変え品を変え、より刺激的に視覚情報を与え続けることによってしか成立しなくなったハリウッドムービーが、遂に、このような形によってしか需要…

地獄の黙示録('79) フランシス・F・コッポラ   <「ベトナム」という妖怪に打ち砕かれて>

1 ニューシネマの最終到達点 アメリカは厄介な国である。 自分の国を最も偉大で、強大な国であると、皆、素朴に信じて疑わないところがあるように見える。敢えて辛辣な言辞を弄すれば、その内実は、食いっぱぐれた無数のヨーロッパ系移民がインディアンを、…

ハート・ロッカー('08)  キャスリン・ビグロー <「戦場のリアリズム」の映像的提示のみに収斂される物語への偏頗な拘泥>

1 「ヒューマンドラマ」としての不全性を削り取った「戦争映画」のリアルな様態 テロの脅威に怯えながらも、その「非日常」の日常下に日々の呼吸を繋ぎ、なお本来の秩序が保証されない混沌のバグダッドの町の一角。 そこに、男たちがいる。 米陸軍の爆発物…