思い出の風景/鎌倉の四季

 鎌倉市による古都保存運動の結果、昭和41年に施行された「古都保存法」によって乱開発が規制されたことで、鎌倉では現在にわたって、円覚寺舎利殿という唯一の国宝建築を含めた文化財が多く残っていて、その佇まいは、京都市奈良市の風格とは違う独特の歴史的地形において際立っている。

 「釈迦堂口切通し」(画像右)に代表される、山を掘削した狭隘な道である「切通し」という天然の要塞によって、周囲を丘陵に囲まれた鎌倉への陸路の出入口である、「鎌倉七口」と呼称された、要害の地を構築した歴史が果たした役割は大きく、今は、古道めぐりの散策コースとして、古都の見えにくい魅力を、私のような低山徘徊好みのハイカーに伝えている。
 
 それは、私が最も愛着の深い奥武蔵の花散策が、低山徘徊の至福の気分のうちに溶融する思いと完全に一致するように、四季の彩り豊かな鎌倉の花散策とセットにすることで、一層、古都の魅力が増幅するのである。
 
 鎌倉の花散策の中で、そんな私が最も愛着の深いのは、「あじさい寺」として有名な明月院の、早春の静かな佇まいである。

 梅雨の時期に多くの観光客でごった返す明月院が、「あじさい寺」ではなく、味わい深い「ウメやボケ、レンギョウ等の花の寺」に変容するのだ。

 そして何より、七里ヶ浜からの冬富士の夕景の素晴らしさ。

 私が最も大好きな富士を、夜まで粘って、その堂々とした単独峰の威容を誇る冬景色と対面できたときの感動は一生忘れないだろう。