武蔵野・初夏の花

 神代植物公園

 私が最も多く通い詰めた「花の公園」である。

 都立で唯一の、この植物公園には、早春から晩春まで各種の花が咲き続け、来園者を失望させることはない。

 中でも、意外に知られていないのは、早春3月に、公園の一角を見事な色彩に染め上げる「ウメ園」である。

 ここには、およそ200本のウメが植林されているが、際立つのは、私の好きな紅梅系が多いこと。

 だから満開時には、眩いほどの色彩美が、1年ぶりの春と出会う入園者の視界に飛び込んでくる。

 これは圧巻である。

 ウメが散って、地面を真紅の絨毯で敷き詰めるときには、いよいよ、春本番の季節に見合った花々の多彩な競演が、園内を一層艶やかな百花繚乱の風景に変容させていく。

 ソメイヨシノの見事な並木の下で、多くの入園者のお花見風景が其処彼処(そこかしこ)に見られるが、私にとって、この時期の入園目的は「ハナモモ園」に尽きると言っていい。

 食用の「実モモ」と違って、花の鑑賞を楽しむ園芸用のハナモモの色彩の濃度は、淡いピンク色の「実モモ」より遥かに深いので、ブルースカイをバックに燃立つように咲き誇る姿は、まさに陽春の季節を自己表現する華麗さそのものである。

 そのハナモモが雨に打たれて、呆気なく散った後に待つのは、晩春に咲き誇るハナミズキの一斉の開花。

 新緑の時期と重なって、その美しさには溜息が出るほどだ。

 更に初夏の季節になると、「ツツジ園」の赤や白が園内を彩っていく。

 そして、5月下旬に満開となる「バラ園」の香り立つ蠱惑(こわく)な匂いが、引きも切らず、入園者を誘(いざな)って止まないのである。

 「シンメトリックに設計された沈床式庭園に植えれたバラ(春バラは409品種5,200余本、秋バラは約300品種5,500余本)の花期は年2回。春は5月下旬の頃が盛りで、秋は10月中旬からです。秋の花は小ぶりですが、色彩が鮮明です」

 これは、神代植物公園の公式ホームページの一文。

 5,200余本の春バラの芳香に誘(いざな)れて、この季節の園内は入園者でごった返し、シャッターチャンスを掴めないほどの、人の行き来の激しさで閉口するのも事実。

 ここは、日本にあるバラ園の中で有数の規模を誇り、ボタンやシャクナゲシャクヤクが見ごろとなる季節と相俟って、独特の甘い香りを放つバラ園の求心力は絶大なのである。

 私の神代植物公園への撮影行脚は、大体、この初夏の季節で閉じていく。

 あとは、夏のユリやキキョウ、サルスベリの花と出会うまで、ここに足を踏み入れることは殆どない。

 3月から8月いっぱいまでが、私の当園への撮影行脚の全てであると言っていい。

 ところで、この「花の公園」へのアプローチは、バスを乗り継いでいくだけだから楽なものである。

 最寄りの大泉学園駅から吉祥寺まで西武バスで行き、そこから調布行きのバスに乗り換えて、公園前で降りるだけ。

 だから、ものの4.50分もすれば、目的地まで辿り着くという利便性。

 これが、当園への私の撮影行脚を頻繁にさせる根拠の一つとなっていて、訪問回数は数え切れないほどだった。

 武蔵野の名残りを豊かに留める、この「花の公園」の魅力は、私にとって何物にも変えがたい 存在だったのである。



[ 思い出の風景/武蔵野・初夏の花  ]より抜粋http://zilgf.blogspot.com/2011/08/blog-post_3812.html