ロード・トゥ・パーディション('02) サム・メンデス <「復讐」と「救済」という、困難な二重課題を負った男の宿命の軌跡>

 1  絵画的空間とも思しき映像が構築した完璧な様式美



 闇の世界の内側で生きる者たちの、その内側のドロドロとした情感系の奥深くまで描き切った、フランシス・フォード・コッポラ監督による「ゴッド・ファーザー」(1972年製作)と比べて、本作が映画的インパクトが相対的に不足しているように見えるのは、派手なアクションを惜しげもなく供給するハリウッドの「殆ど全身エンタメ系」の、賞味期限限定の映画に馴れ過ぎてしまっているという理由もあるが、それ以上に、この映画が「ゴッド・ファーザー」という極北的映像が内包した、「普遍的な家族の有りよう」というテーマ性と重なる部分がありながらも、そのテーマ性の掘り下げが、ヒューマンドラマのそれに近い映像構成をとっているからである。

 感傷的なBGMの連射や、準ヒーローとなっている子供の命だけは必ず救済するなど、ストーリーの先読み可能なハンデを、構図の全てが絵になる程の、美し過ぎる映像が構築した様式美によって強力に補完しつつも、毒気含みの前作(「アメリカン・ビューティー」)の表現世界を、更に突き抜けていくという冒険を回避したかの如く、なおハリウッド的な甘さから解き放たれない印象を残した本作の基幹メッセージを読み取るとすれば、ラストシークエンスに集約される、父と子のロードムービー的な物語の、ほぼ予約された「半身軟着点」が包含する描写のうちに収斂されるだろう。

 決して粗悪な作品ではなかったが、絵画的空間とも思しき映像が構築した完璧な様式美の、相当に強力な補完に救われたという印象が拭えなかったのも事実だった(注)。

 以下、この把握をベースにした批評を繋いでいきたい。


(注)以下、サム・メンデス監督と見事なタッグを見せ、前作と共にアカデミー撮影賞を受賞した、本作の撮影監督(コンラッド・ホール)との仕事が成し得た絵画的空間の成就を証明するトム・ハンクスの言葉。

 「これほど美しいギャング映画は、初めて観ました」というインタビューアーに対して、
「それは同感だね。サム・メンデス監督と撮影監督のコンラッド・ホールは絶対的な信頼関係にあって、ほとんど夫婦のようで(笑)」とトム・ハンクスはジョーク含みで答えていた。(映画.com トム・ハンクス インタビュー2002年10月2日)
 
 
 
(人生論的映画評論/ロード・トゥ・パーディション('02) サム・メンデス   <「復讐」と「救済」という、困難な二重課題を負った男の宿命の軌跡>)より抜粋http://zilge.blogspot.com/2011/11/02.html