奇人たちの晩餐会(‘98) フランシス・ヴェベール <悪意なき「突き抜けた愚かさ」の餌食になったリッチな者たちの度し難き「愚かさ」

イメージ 11  限度なくエスカレートする悪趣味のゲームのペナルティーを受ける男
 
 
 
冒頭に、ブーメラン男が広い公園の中で愉悦していた。
 
アボリジニの戦士が使う原始的なブーメラン」(本人の言葉)を投げ、遠くまで飛ばした果てに、自分の額(ひたい)に当たってしまうのだ。
 
このシーンこそ、本作のメタメッセージになっていることは、最後に明かされる。
 
一方、「お偉方が集まる晩餐会」に招待され、嬉々として語る男がいた。
 
無論、その男は、「お偉方が集まる晩餐会」が悪趣味に満ちたゲームである事実を知らない。
 
そのゲームとは、毎週水曜日に、リッチな連中たちが「バカ」を連れて来て、彼らに奇人ぶりを競い合わせ、「バカのチャンピオン」を決めるという低俗の極致とも言える「晩餐会」。
 
そのゲームでの「バカのチャンピオン」に相応しい人物と特定されたのが、「お偉方が集まる晩餐会」に招待され、嬉々として語る男 ―― 大蔵省の税務局員であるピニョンだった。
 
以下、この抱腹絶倒のコメディの面白さの詳細な梗概を紹介していく。
 
 
まず、ピニョンの「バカさ加減」を曝け出す最初のエピソードから。
 
フランスの特急列車でのことだった。
 
マッチ棒で建造物の模型を作り、それを写真にする。
 
それが趣味だった。
 
いきなり自分の向かい側の席に座って、エッフェル塔のマッチ棒模型の写真を落としたことで、ピニョンは、こんな自慢話を始めたのである。
 
エッフェル塔。マッチ棒で34万6422本・・・まず最初の問題は、吊り橋とは0.1度の角度でもダメなんです。コンコルドの難しさは・・・」
 
次々に模型を写した写真を出して、列車が終点に到着するまで、仕事で「晩餐会」に参加できないコルディエに語り続けるピニョンの話は止まることがなかった。
 
ピニョンの話を聞いて、まさに「バカ」に相応しい人物と特定したコルディエは、早速、友人のリッチな出版社社長・ピエール・ブロシャン(以下、ピエール)に連絡した。
 
「世界一のバカだ」
 
コルディエの第一声である。
 
「世界一のバカ」と太鼓判を押されたピニョンに、ピエールから電話が入り、「お偉方が集まる晩餐会」に招待され、緊張含みで快諾する。
 
一切は、ここから開かれていく。
 
今回は、10人の「バカ」が招待されたにも拘わらず、肝心のピエールはゴルフスィングの際に腰を痛めてしまった。
 
それでも、「バカのチャンピオン」を決める「晩餐会」を楽しみにするピエールに、妻のクリスティーヌは露骨に非難する。
 
「人をバカにして楽しいの?」
 
夫の悪趣味に付き合い切れなくなったからだ。
 
「バカだからバカにする。当然だろ」
 
専門家に頼んでまでも「バカ」を探させる夫の悪趣味は、今や限度なく、エスカレートするばかりだった。
 
ぎっくり腰になったピエールの高級アパートの6階にピニョンが訪ねて来たのは、クリスティーヌが部屋から姿を消し、主治医のソルビエと入れ替わりになったときだった。
 
「お会いできて、嬉しい」
「僕もです。ご招待を受けてからというもの、雲の上にいるみたいで。初めは冗談かと。バカみたいでしょ?大出版社が僕に興味を持って、晩餐会に招待だなんて。人生が変わりました」
 
女房を寝盗った「僕よりバカな職場の男」の話をするピニョンに、嘲笑を隠し込みながら笑うピエール。
 
しかし、ピエールの笑いも、そこまでだった。
 
「もう、二度と帰らないわ。さよなら」
 
留守電に入ったクリスティーヌの「縁切り宣言」である。
 
動顛するピエールは、頼りないピニョンのサポートで、ぎっくり腰を悪化させ、主治医の往診の依頼をピニョンに求める。
 
主治医のソルビエの元に電話をかけたつもりのピニョンは、あろうことか、ピエールの愛人・マルレーヌの家に電話をしてしまう。
 
そこで、クリスティーヌの家出の事実を話したことで、「色情狂」(ピエールの言葉)のマルレーヌが駆けつける事態を怖れるピエールは、クリスティーヌが帰宅した旨を、再びピニョンに電話させるが、「バカ」な男は、誤ってクリスティーヌの不在について暴露してしまうのである。
 
慌てたピエールは、大急ぎで駆けつけるマルレーヌに、「妻の帰宅」を電話で説明するが、マルレーヌは全く信用しなかった。
 
「残念だけど、奥さんは戻って来ないわ。絶対にルブランの所よ」
 
その話を聞いて、自分に親切に振る舞おうとするピニョンを追い返すピエールの傲慢な態度は、逆にピニョンを怒らせてしまう。
 
「人の親切に“出ていけ”と言うのは失礼です。さよなら」
「ルブランは親友だったが、二年前に絶好した」
 
かつて、ルブランの恋人だったクリスティーヌと結婚したというピエールの話を受け、単純なピニョンは、急性腰痛症と「妻の縁切り宣言」のダブルパンチで、傷心を極めるピエールに同情し、自分が代わって、作家のルブランの家に電話をすることになる。
 
この時点で、ピエールには、晩餐会への参加のモチーフなど二の次だった。
 
ベルギーのプロデューサーを演じて、ルブランの小説の映画化権を買う話に託(かこつ)けて、クリスティーヌの所在を確認する魂胆なのだが、「世界一のバカ」は、本来の目的を忘れて、「映画化権を買ったぞ!うまく値切れた!」と躍り上がって大喜びする始末。
 
「たった5分で全部忘れた。僕の想像を超えてる」
 
呆れ果てるばかりのピエールだけが、「突き抜けた愚かさ」を体現する男に翻弄されている。
 
それは、限度なくエスカレートする悪趣味のゲームのペナルティーの風景を、存分に露わにするようだった。
 
 
 
2  シチュエーション・コメディの独壇場の世界の威力が炸裂するラストシーン
 
 
 
帰宅して来たクリスティーヌをマルレーヌと間違えたために、ピエールの愛人の訪問を歓迎するようなメッセージを、相手を特定できずに送ってしまうピニョンの行動が、更に腰痛で歩けないピエールの状況を悪化させてしまう。
 
そのことは、ルブランにピエールの電話を教えてしまったために、ピエールの現状を心配するルブランが訪問するに至り、肝心のクリスティーヌが、「広告屋のムノーの家に行く」と言う連絡を受けた事実を、友人のピエールに話すのだ。
 
「最低の女ったらし」(ピエールの言葉)と決めつけられたムノーこそ、クリスティーヌの浮気相手と特定された男。
 
散々、バカにされたピニョンが税務官であったことが、またしても事態を悪化させていく。
 
ムノーについての情報をピニョンが知っていることで、帰りかけたピニョンを部屋に戻すピエール。
 
ピエールが知りたがっているムノーの住所を聞いても、サッカー観戦に夢中になるピニョンの奇矯な行動を見せつけられ、爆笑するルブラン。
 
「腰痛のうえにバカに翻弄され、妻に逃げられたうえに、一晩中、あんな奴と!」
 
かくて、ピニョンが「敏腕の査察官」と呼ぶシュバルから、ムノーの住所を聞き出すために、まだ夕食を摂っていないというムノーを、ピエールの家に招くことになった。
 
そのシュバルがピエールの家にやって来た。
 
ムノーの住所を聞き出す狙いなのに、空腹のシュバルにオムレツを振る舞い、一向に本題に入ろうとしないピニョンに、「住所だよ!バカ!」と怒鳴りつけるピエール。
 
しかし、何とかムノーの住所を聞き出したものの、ムノーに声を知られているピエールとルブランに代わって、又しても、電話するのはピニョン。
 
「どうやら、僕の出番ですね」
 
ピニョンのバカさ加減に懲りているピエールは、一頻り練習させた後、共同経営者のルッサンの代理人を装って、ムノーに電話するピニョン。
 
「振られたよ」とムノー。
 
その声を聞いて、安堵するピエール。
 
「ルッサンは奥さんと一緒だと?」とピニョン。
「まさか。査察官の女房だよ。僕を査察した変態さ。奴の女房を寝盗った」
 
ムノーが寝盗ったのが、後方にいる査察官・シュバルの女房と知って、動顛するシュバル。
 
「ムノーの会社に使いを頼んだ。結果がこれだ」
 
そう言って、ムノーの家に電話するシュバル。
 
ムノーの家で浮気中のシュバル夫人に電話を取り次がせ、怒りを露わにするシュバル。
 
「すぐ帰るんだ。今すぐ!何?服を着ていいか?勿論だ!」
 
爆笑を抑え切れないピエールとルブラン。
 
 
 
(人生論的映画評論・続/奇人たちの晩餐会(‘98) フランシス・ヴェベール  <悪意なき「突き抜けた愚かさ」の餌食になったリッチな者たちの度し難き「愚かさ」>)より抜粋http://zilgz.blogspot.jp/2014/11/98.html