ポセイドン・アドベンチャー(‘72) ロナルド・ニーム <「ニューシネマ」の臭気が立ち込めた「パニック映画」の頂点を極めるエンタメムービー>

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1  「一緒に行こう!上に行けば命がある」

 

 

 

「大晦日、ニューヨークからアテネへ向け、航海中のポセイドン号が沈没。生存者は僅かだった。これは、その一握りの人々の物語である」

 

このキャプションから開かれた物語の面白さは、如何にも、「ニューシネマ」時代の臭気が立ち込めていて、紛れもなく、「パニック映画」の頂点を極めるエンタメムービーであると言っていい。

 

以下、梗概。

 

バラストを増やす。船底が軽すぎる」

 

これは、ポセイドン号の船長が、傍らにいる船主代理人に指摘した言葉だが、嵐に遭遇し、船体が大きく揺さぶられ、船内に小さなパニックが起こっている時だった。

 

船舶の重量のバランスを取るために、積み込む重しとして不可欠なバラストの不足が、大波の襲来によって転覆の危険性を察知していた船長の提言を、船主代理人は、バラストの注入で目的地に着くことの遅れを怖れて拒み、「全速前進」を命じるに至った。

 

しかし、その日のうちに、船長が抱いていた危惧の念が現実になる。

 

地震観測所から、クレタ島北西209キロを震源地とする、海底地震の発生を告げる電報が入ったからである。

 

「水の壁」(船長の言葉)と称する大津波が押し寄せて来たのは、大食堂で、船客たちが新年を祝うパーティの最中だった。

 

一瞬にして転覆したポセイドン号。

 

ポセイドン号の船体の上部が海底に没したことで、船体の上下が変換してしまったのである。

 

大混乱の中で、多くの船客たちの生命を喪うに至った。

 

それは、この大惨事から、辛うじて命を繋ぐことができた船客たちの、苛酷な戦いが開かれた瞬間だった。

 

「本船の隔壁は完全防水です。皆さん、冷静に。救助を待って下さい」

 

生き残ったパーサー(客船事務長)の言葉である。

 

〈生〉と〈死〉を分けた大惨事のスポットが、一瞬、不気味な静寂を保持している渦中に投げ入れられたのだ。

 

ここから、多分に自信過剰な面があるが、一人の男の合理的な判断力による救助劇が切り拓かれていく。

 

その男の名は、スコット牧師。

 

「ひざまずいて、神に祈っても、全て上手くいくとは限らない。祈っても、真冬のボロ家が暖かくはならん。寒い時は、家具でも家でも燃やせ。教会も祈りだけの場所ではない」

 

そんな型破りな合理的思考を持つが故に、司教から聖職の特権を奪われ、アフリカにまで左遷されていて、現在、懲罰を受けている男・スコット牧師の言葉である。

 

「苦しい時に、神に祈るな。勇気を持って、勝つ努力をせよ。神は努力する者を愛す。自力でやることだ。『内なる神』も、一緒に戦ってくれる」

 

船のデッキで、多くの船客たちに、そんな説教をする男なのだ。

 

その男がリードする救助劇は、船底が海面に現われているので、海面の下にいる現在位置から、船底に向けて登っていく移動が始まった。

 

「自殺行為だ!」

 

こんな反論を唱える船客は、「動かず、救助を待った方がいい」と言う、パーサーの説得に従ったのである。

 

船客たちに対して、スコット牧師は言い切った。

 

「助けてもらえる所まで行かなきゃ!上に行けば命がある」

 

そう言って、スコット牧師らは、足を負傷していたエイカーズ(船のボーイ)がいる、転覆したポセイドン号の上部に向おうとする。

 

船底に近い上部に進んでいくスコット牧師と、9人の船客たち。

 

巨大なクリスマス・ツリーを上部に立てかけ、それをよじ登っていくのだ。

 

それでも、動かず、救助を待つ多くの船客たちがいる。

 

「ブリッジにいた者は、皆死んだ。彼らは水の中だ!助かりたいなら、力を合わせるんだ。一緒に行こう!船は沈む一方だ!そこにいれば、確実に死ぬ!」

 

スコット牧師は、こう叫んで、行動を共にすることを呼びかけたが、「牧師は船のことを知らん!」と叫び返し、彼らは、「動かない」という消極的な行為を選択したのである。

 

この二つの選択の成否は、まもなく、悲惨な結果として現出する。

 

キッチンボイラーが爆発して、あっという間に、「動かない」という行為を選択をした人々の命を奪ってしまったのである。

 

少なくとも、この時点で、スコット牧師の合理的な意見の正しさが証明されたのである。

 

 

 

2  「私たちは、神に頼らず、自力でここまで来た!だから邪魔するな!」

 

 

 

イカーズがいることで、船内の位置の特定が容易になったことは幸いだった。

 

船底に向かって進む、10人の先頭に立つスコット牧師は、狭い換気塔を経由し、“ブロードウェイ”と呼ばれる従業員通路を通り、未知のゾーンでの苦労を重ねつつ、エンジンルーム(機関室)に辿り着くための、言語を絶する闘いに挑んでいく。

 

下から猛烈な勢いで押し寄せて来る水流との、一刻を争う、「命を繋ぐ」ための闘いを強いられるのだ。

 

突然の爆裂音で、エイカーズが換気塔に落ち、激しい水流に呑み込まれていった。

 

一行の、最初の犠牲者になったのは、「脱出行」の「戦力」として貴重なエイカーズだった。

 

そのエイカーズを救うために、自ら水流の中に潜っていったニューヨークの刑事・ロゴの自分勝手な行動を非難する、スコットとの対立が一気に表面化し、激しい口論が炸裂する。

 

それは、”ブロードウェイ”に辿り着いたとき、自分たち以外に生きている船客たちと出会ったスコットが、船首に向かって進む行動を制止させようとしたことで、ロゴとの確執を生んだもの。

 

「なぜ分る?見て来たのか。何でも独断だ!あれだけの人数が行くんだ。正解かも知れん!」

「20人が死のうと言えば、死ぬのか!おめでたいよ!」

 

かくて、取っ組み合いの喧嘩になるが、それを止められたことで、スコットは、自らが安全であると信じる船尾に行き、その確認をするために行くと言い切った。

 

「時間は15分だ。戻らなかったら船首に行く」

 

ロゴとの約束を了承したスコットは、船尾の方に向かっていくが、15分を経過してもスコットが戻って来ないので、約束通り、船首に行こうとしたロゴたちの前に現れたスコット。

 

「あったぞ!見つけた!機関室を見て来た。道も分った!」

 

この時点で、姉のスーザンと共に、欧州へ遊びに行く予定だったロビン少年の行方が分らなかったが、水流に呑まれた少年を救済したスコットのエピソードを経由して、このスコットの一言で、一行は船尾に向かっていく。

 

ハッチ(船室へ通じる昇降口)に辿り着き、機関室に向かう一行に待ち受けていた次の受難は、10メートルほどある浸水の中を通過することだった。

 

ロープを張るために、スコットが先頭になって浸水に飛び込むが、途中、鉄板が障害になり、そこを抜けられず、命の危機に遭遇するに至った。

 

そんなスコットを救助したのは、学生時代に潜水大会で優勝したことがあると自負する、ベルだった。

 

しかし、肥満体で心臓疾患を持つ彼女は、スコットを救助した直後、心臓発作を起こして息を引き取ってしまう。

 

豪華客船で、穏健な夫と優雅な旅をしていた円満な中年夫婦の伴侶が、この一行での、二人目の犠牲者になったのである。

 

その事実を、ロゴの苦渋な表情で察知したローゼンは、矢も盾もたまらず、浸水の中に飛び込み、愛妻の死を目の当たりに見て、深い悲嘆に暮れるが、一行には、今や、哀悼の意を表現している時間などなかった。

 

ポセイドン号の転覆事故で、兄を亡くした絶望感の中で、雑貨商のジェームズに励まされながら、浸水の中を恐々と突き抜けんとする、金槌の女性歌手・ノニーを含めて、一行はロープ伝いに、浸水を通り抜けていく。

 

浸水を通り抜けけた一行は、プロペラ・シャフト(エンジンの駆動力をプロペラに伝達する重要部品)室に最近接しながら、突然の爆発で、ロゴの愛妻・リンダ(元娼婦)が、燃え盛る火炎の中に落下し、命を落としてしまう。

 

三人目の犠牲者である。

 

愛妻の死の衝撃で、辛うじて繋ぎ止めていた理性を失ったロゴは、スコットを難詰し、喚き散らすだけだった。

 

その思いを誰よりも受容するスコットは、自らが拠って立つ、「神」への「プロテスト」の言葉を結ぶのだ。

 

「まだ足りないのか!私たちは、神に頼らず、自力でここまで来た!助けは請わない。だから邪魔するな!何人、生贄が欲しいんだ!」

 

スチーム・パイプ(蒸気管)の破裂で、辺り一面に蒸気が蔓延し、殆ど〈生〉と〈死〉のボーダーが見えない極限状況下で、激しい情動を炸裂させる一人の牧師が、そこにいる。

 

スチームパイプのバルブに全身を預け、必死に蒸気を止めるのだ。

 

それを見守る生存者たち。

 
 
(人生論的映画評論・続/ポセイドン・アドベンチャー(‘72) ロナルド・ニーム <「ニューシネマ」の臭気が立ち込めた「パニック映画」の頂点を極めるエンタメムービー>)より抜粋http://zilgz.blogspot.jp/2015/02/72.html