「トラもハエもたたく」 ―― 反腐敗キャンペーンの嵐が中国社会を覆い尽くしている

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1  「中国一の金持ち村」 ―― 命を懸けた村民のバイタリティが弾け、大地を揺さぶり、奇跡をもたらす
 
 
 
土豪」という言葉がある。
 
「日中・中日辞典」では「地方の悪徳ボス」と説明されているが、近年、その「土豪」が中国で話題になっている。
 
「成金」への批判で使用されているのだ。
 
「成金」の代名詞の「土豪」は、金持ちである事実を露骨に誇示する連中なので、蔑称として使われている。
 
中国の社会・経済・文化に精通するジャーナリスト・高口康太(たかぐちこうた)の最新の報告によると、中国には、その「土豪」が蝟集(いしゅう)する「成金村」=「土豪村」が、幾つも出現しているということ。
 
その「最新版」が、広東省中山市(ちゅうざんし)の南朗鎮(なんらん)関塘村という小さな村で起こった、驚嘆すべきエピソードである。
 
何と、僅か367人の村民で、13億元(約218億円)を分配したというのだ。
 
367人の村民には、一人平均、約6000万円の「臨時収入」が転がり込んだらしい。 
 
当然ながら、関塘村の村民たちは、この事実を隠蔽(いんぺい)していたが、情報を嗅ぎつけた自動車ディーラーが村にやって来て、高級車の販売会を開催したことで、全国に知れわたってしまったというオチだった。 
 
また、「中国一の金持ち村」・江蘇省(こうそしょう・上海に隣接し、南京市が省都の中国沿岸部の行政区)の華西村(かせいそん)は、「天下第一村」として、広く人口に膾炙(かいしゃ)されている。
 
この華西村の自慢は、「村民の平均年収1千万円越え」・「豪邸、高級車の無償支給」などという、常識外れのリッチぶりで、世界にその名を轟(とどろ)かせた。
 
―― 以下、その華西村をルポした、2016年3月の時点の報告を紹介したい。
 
「呉宝仁(ウー・バオレン)という一人の男の奮闘が村に奇跡をもたらす。彼は1960年代後半、資本主義を糾弾する文化大革命の嵐が吹き荒れるなか、村に金属加工工場を設立。そこでひそかに村人を働かせた。工場の周囲は、外部の者に見つからないように藁で覆われていたという。
 
この呉宝仁の勇気ある行動のおかげで、華西村はほかの村に先んじて工業化の道を踏み出すことができた。78年の改革・開放後は、産業を多角化し、鉄鋼業と繊維業に力を入れ、村は急速に発展。
 
さらに周辺の村との合併によって、寒村は面積30㎢、人口約3万5000人の工業都市に生まれ変わった。2005年には、村営コングロマリット『華西集団』の総売り上げが約300億元(約5185億円)を記録。
 
華西村は、すべての村民に豪華な一戸建や高級車を支給する“超・金持ち村”としてその名を世界に轟かせ、呉宝仁は米『タイム』誌の表紙を飾った。
 
村の発展に大きく貢献したのは、独特の株式分配方法だ。村営企業に勤める者の月給は実はそれほど高くはない。だがボーナスは高額で、しかもその大部分が村営企業の株券で支払われている。この株は市場では売買できないが、年1%の配当金を得ることができるほか、村営企業から何かを購入するときにも使える。華西村は、こうして節約した人件費を事業拡大の資金に充て、莫大な富を築いたのだ」
 
さすが、「利に聡(さと)い中国人」というところだが、命を懸けて、文革の大敵・「資本主義」の経済システムを逸早(いちはや)く導入し、村営コングロマリットまで作った華西村の英雄・呉宝仁の大胆不敵な胆力には、正直、驚きを禁じ得ない。
 
命を懸けた村民のバイタリティが弾け、大地を揺さぶり、奇跡をもたらした。
 
これが、中国現代史に、まるで約束されたかのように出現した、「中国一の金持ち村」の伝説的成功譚(せいこうたん)の一端である。
 
1980年代から、「郷鎮企業」(ごうちんきぎょう=人民公社解体後に急増した農村企業)の経営に成功し、平均収入が1000万円を超えたというエピソードもあり、この村の人々のバイタリティに圧倒される。
 
2013年に84で逝世(せいせい)した呉宝仁のように、有能で度胸の座った人物が、2018年5月現在、14億もの人口を有する国家の目立たない辺りで自立的に呼吸を繋いでいることを想起する時、飛躍する物言いをすれば、「新安保」(1960年)締結に伴って、「日米地位協定」(注)で米国に主権を丸投げしている感のある、我が国の現実を考えれば、「依存と自立」の問題を改めて考えざるを得ない
 
ともあれ、四川省(復興鎮建設村)をルーツにする「成金村」=「土豪村」の存在を、「ヘリコプターマネー」(日銀が市場に大量の貨幣を市中に供給すること)の「小村版」と見下し、濡れ手に粟(あわ)の「バラマキ手法」を嘲弄(ちょうろう)するのは易いが、大金を巡る醜い争いが各地で惹起しても、人間の欲望系を思い切り解き放つ烈火の如きエネルギーは、その是非の判断を問うことを無視すれば、中華人民共和国の末端自治区での生存競争の様態こそ、人間の原始的な生きざまの凄みを見せつけられているようである。
 
だから、大金を手にして身を持ち崩す町村民が弾き出されていくのは必至だった。
 
大金の使い方が分らない者の悲劇は、自業自得ということなのだろう。
 
 
 
2  「トラもハエもたたく」 ―― 反腐敗キャンペーンの嵐が中国社会を覆い尽くしている
 
 
同時に今、末端自治区の腐敗が極点に達している。
 
地方の末端組織に蔓延(はびこ)る腐敗には、未だ十分に手を付けられていないとも言われながらも、実際は、権力闘争の一環として、習近平国家主席・党中央委員会総書記・中央軍事委員会主席)による、「トラ(大物)もハエ(小物)もたたく」との号令一下(いっか)、反腐敗キャンペーンの餌食(えじき)にされる現実が、14億人を格付けする中国社会を覆い尽くしている。
 
先(ま)ず、国家主席習近平が推進したのが、130万人にも及ぶ徹底した「腐敗撲滅」。
 
党大会を前に、CCTV(中国国営テレビ局)は、汚職摘発の成果をアピールする特別番組を、連日に亘(わた)って放送した。
 
「被告人は収賄の罪で懲役15年に処する」
 
天津市公安局長の当該(とうがい)幹部は、収賄と職権乱用で90億円余りを不正蓄財したとして罪に問われた。
 
「被告人は死刑。2年の執行猶予ののち、終身刑とする」
 
非公表だが、執行件数が世界最多の中国の死刑制度には、死刑判決に執行猶予が付せられているのが特徴的だが、「人治国家」(人間が治める国家)ではなく、「法治国家」を目指す習近平は、特権を利用して私腹を肥やす官僚・軍人たちに厳しく対峙(たいじ)している。
 
習近平のこの姿勢は、国民からの支持を集める意図があると言っていい。
 
  

時代の風景  「 『トラもハエもたたく』 ―― 反腐敗キャンペーンの嵐が中国社会を覆い尽くしている」よりhttp://zilgg.blogspot.jp/2018/05/blog-post_14.html