人はどのように男になり、女になっていくのか

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ヒトの性が、XとYの性染色体によって規定される事実が瞭然(りょうぜん)としたのは、20世紀半ばに性染色体が発見されたからである。
 
この発見は、Y染色体の有無が性を決定し、Y染色体を持つ個体が男性であり、Y染色体を持たない個体が女性になる事実が判然とする。
 
常識的なことだが、「クラインフェルター症候群」(後述)のような染色体異常による疾患さえなければ、ヒトの染色体は23組46本と決まっている。
 
この中の一組が性染色体であり、男はXY、女性はXX。
 
しかし、私たちは、この理解で留まってはならない。
 
「男と女の体は、どのようにして作られるか」
 
この問題意識をもって、現代の基礎生物学の知見の許す限り、性分化の生物学的機序(生物学的メカニズム)について知っておく必要性がある。
 
なぜなら、「性的指向」に関連するLGBも、「性自認」に関連するTも、性分化のプロセス(脳の性分化段階)における影響による発現が考えられるからである。
 
要するに、「男性化・女性化」という、性分化の機序は極めて複雑であり、幾多の険しい関門を突破していくということである
 

そして、その突破すべき険しい関門は、たった一つの段階においてさえ十全に機能しなければ、異常を起こし得るリスクを抱えているが故に、ヒトの性は、常に想定される状態に性分化し、発達するとは限らないということだ。

 
ヒトの性分化への道程は、幾多の険しい関門突破なしに済まないのである。
 
多くの胎児は、正常に性分化し、発達するが、私たちの性には、性分化疾患のトラップに嵌る危うさと同居しているのである。
 
〈生命〉の厳密な定義が確立されていない現実を踏まえて書くが、その関門を突破して、私たちの世界にデビューし、固有名詞を有する自我にまで辿り着いた全ての人間の〈生命〉には、存在するだけの何某(なにがし)かの理由あったのだ。(拙稿「同性愛者は存在するだけの理由がある」の一部引用)
 
以下、性分化の突破すべき険しい4つの関門に言及したい。
 
生殖器決定の第1のプロセスは、「遺伝的な性」としての、性染色体による性の決定である。

受精における卵をするX染色体に対して、XまたはY染色体を有し、精子の持つ性染色体によって性が規定されるのである。
 
要するに、Y染色体を有する個体は男性に分化し、男性生殖器を持つべく運命づけられるのだ。
 
これを「精巣決定遺伝子」と言うが、通常、脊椎動物で初めて発見された性決定遺伝子「SRY遺伝子」と呼ばれている。
 
男性の場合、「性腺原基」(せいせんげんき・両性に共通な器官)が、Y染色体上にある「SRY遺伝子」が働くことによって精巣に発育するということである
 
ヒトの性分化4つの険しい関門の第2のプロセスは、雄では精巣・では卵巣になる「生殖腺の性」、次に、身体の生理学的な性に分化する「身体的な性」であり最後に、細胞・シナプス(刺激を他の細胞に伝達する神経細胞)の数・領域の形や大きさなど、「アンドロゲン」(性欲の発達に関与し、精巣から分泌される雄性ホルモン)が作用しない雌と異なり、「アンドロゲン」が作用し、構造や機能に性差が生じる「脳の性」の分化続くということ。

当然ながら、胎生5~6週位までは、卵巣と精巣は分化していないので、性染色体の組み合わせがXYでも、或いは、XXでも構造な差異が認められず、二つの選択肢を平等に持っている。
 
通常、性決定遺伝子である「SRY遺伝子」(染色体上にある)が作用すると「性腺原基」が精巣に分化し、作用しないと卵巣になる。
 
「SRY遺伝子」が「精巣決定遺伝子」である所以である
 
XX男性では、X染色体上に、「染色体」(ヒトの細胞核の中にあり、遺伝情報を担うDNAとタンパク質から構成され、23組・46本の染色体の1組・2本の染色体が性染色体)の一部が切断され、付着して位置を変えたもの=「転座」したSRYの働きによって精巣が生成されるのである。
 
―― ここで、4段階に分けられている「ヒトの性分化」の概略を確認していこう。
 

    「遺伝的な性 ―― 「染色体の性」(XY=男性XX=女性

    「生殖腺の性」 ―― 精巣と卵巣

    「身体的な性」 ―― 「内部生殖器」外部生殖器

    「脳の性」 ―― 内分泌調節・行動心理

 
因みに、男性ホルモン「アンドロゲン」を分泌したり、精子を作って体外まで運ぶ器官・男性生殖器系の中で、体の表面に付属しているもの「外部生殖器」である
 
また、体内にあって、外部に露出していない性器が「内部生殖器」。
 
女性では膣(ちつ)・子宮・卵管(排卵によって卵子を子宮に送る管)・卵巣(女性ホルモンを分泌し、女性らしい体を作る)、男性では前立腺(ぜんりつせん・男性だけにある臓器で、膀胱の下にある)・射精管・精嚢(せいのう・精液の8割を分泌する雄の副生殖腺)・精巣(睾丸=こうがん)など。
 
この性分化の過程で、「染色体の性」(「性染色体」)が起動点になるのは、紛れもない事実である
 
しかし、この組み合わせの決定によって、男女の身体を作る設計図が決まり、自動的に進行していくわけではない。
 
実際には、この「XY=男性・XX=女性」の性染色体の組み合わせ(「遺伝的な性」)がオールマイティーではないのだ。
 
雄では精巣・雌では卵巣になる「生殖腺の性」 ―― これが最も重要な決定である。
 
「ヒトの性分化」のステージにおいて、その決定に応じて惹起するのが「身体的な性」であり、「内部生殖器」(内性器)や「外部生殖器」(外性器)が分化する。
 
最終的に、「脳の性」が決まるが、このステージにおいて、「内分泌調整」(ホルモン)や性行動のように生殖に関係するものに限定されず、男らしさや女らしさといった心理的な面の方向性が明瞭になり、男として、或いは、女としての全体が完成していくのである。
 
男と女の体が完成していくまでの、4つの関門の険しさ。
 
この事実の重みは、4つの関門を突破してきた私たちの、この〈生〉の〈現在性〉それ自身が証明しているのである。


心の風景 人はどのように男になり、女になっていくのか」よりhttp://www.freezilx2g.com/2018/08/blog-post_28.html