1 炙り出された視界不良の歴史的状況性
遂に、ここまできてしまった。
「徴用工問題」と「慰安婦財団解散」の問題である。
これによって、欧米列強下で「違法」ではなかった、1910年の「韓国併合」(韓国併合条約)など、戦前の諸条約の無効も確認し、韓国を朝鮮半島の唯一の合法政府と認め、日韓両国が国交正常化し、両国で締結した「請求権・経済協力協定」では、請求権問題の「完全、且つ、最終的解決」を確認した。
15年にわたる交渉の末に、調印に漕(こ)ぎ着けた「基本条約」において、総額8億ドル(無償3億ドル+政府借款2億ドル、民間借款3億ドル)の援助資金と引き換えに、韓国側は請求権を放棄した。
ところが、歴代の韓国政権が、「徴用工」の問題が「協定」の対象に含まれると認定してきたにも拘らず、2018年、韓国大法院(最高裁)の判決は、植民地時代の韓国人の慰謝料の個人的請求権を、「日韓基本条約」の付随協約・「請求権協定」の枠外に置き、その「不法な植民地支配」という範疇をマキシマムに広げ、認定してしまったのだ。
だから、「請求権協定」に反するのは明白な韓国大法院の判決が、「国民情緒法」を強く印象づけたのは免れ得ないと言える。
この判決の破壊力は、戦後の日韓関係の法的基盤を根柢から反転した事実によって、事態の深刻さを炙(あぶ)り出してしまったことにある。
我が国が、個人の請求権が消滅していない事実を認めるのは吝(やぶさ)かでないが、「請求権協定」の存在の有効性によって、個人の請求権の行使は不可能なのだ。
韓国政府もまた、国内法を制定して,元徴用工に補償してきたという経緯がある。
また、「慰安婦財団解散」も深刻である。
2015年12月28日、日本政府(岸田文雄外務大臣)と韓国政府(尹炳世=ユン・ビョンセ外交部長官)が、ソウル特別市において、「慰安婦問題日韓合意」を発表し、「日韓間の慰安婦問題が最終的、且つ、不可逆的に解決されることを確認する」と表明した。
かくて、元慰安婦47人中、36人(数字は不分明)が、一人につき1億ウォン(1ウォンは0.1円だから、1億ウォンは1000万円)の支給を受けたとされるが、2017年5月に大統領となった文在寅(ムン・ジェイン)政権が、卓袱台返(ちゃぶだいがえ)しを敢行する。
日本政府が拠出した10億円に相当する資金を投入することで、全ての元慰安婦に満遍(まんべん)なく、且つ、心置きなく受領できる体制を整備する。
「慰安婦問題日韓合意」が、根柢から全否定されたのだ。
合意の骨抜きが狙いだからである。
日韓の溝が一層、深まることが予想される卓袱台返しのインパクトは、日韓関係の中枢を自壊させる不安を生み、視界不良の歴史的状況性を炙(あぶ)り出してしまったのである。
「神経症」と「心身症」の違いを結論的に要約すれば、以前は、「不安神経症」とネーミングしたフロイトの影響で「ノイローゼ」と呼ばれていた事実で分るように、「神経症」は何某(なにがし)かのストレスに起因する「心の病」(「心身の機能障害」)であるのに対し、「心身症」は何某かのストレスに起因する「身体疾患」である。
また、1980年のDSM-III(第3版)では、「神経症」という伝統的概念は廃止され、近年では、社会的適応の不調から「不安障害」と呼ばれているが、幻覚や妄想が含まれていないので、「精神病」と切れて、その主症状には、パニック障害・強迫性障害(「洗浄強迫」など、同じ行為・思考を繰り返す)・解離性障害(自己同一性の剝落で、「ヒステリー」も含まれる)・心気症(DSM-5では、「病気不安症」など)等々。
要するに、「心」の不調が起因する「心身の機能障害」か、或いは、「身体疾患」を発現する特徴的な症状の違いであるということ。