私自身を含めて、多くの人たちは、単純に結論を出してしまう「システム1」=「速い思考」に「時間」を預け、与えられた難しいタスク(課題)の心理圧によって、自我が消耗する事態を防いでいるのである。
山本七平の言葉である。
その場を支配する感覚的な雰囲気としての「空気」の中枢に、その場に臨む尖鋭(せんえい)な感覚によって、「空気」の揺れ具合を読み込んでいく(「臨在感的把握」)。
この国では、この現象を支配する者が、一番強いのである。
「言語」を制する者は、「非言語」を支配する。
「非言語」を支配するから、「コミュニケーション」の中枢を支配する。
この世で、「コミュニケーション」の中枢を支配する者が、一番強いのだ。
「コミュニケーション」の中枢を支配するという突出した現象は、自らを覆ってしまうほどの複雑な「関係状況」を支配することを意味するからである。
従って、「大きな絶対権」を持つ「空気」を支配し、「コミュニケーション」の中枢を支配する現象への主体的自己投入には、「周りも、自分と同じ考えのはず」という、「認知バイアス」=「思考の偏在性」が前提条件になっていなければならない。
思うに、イスラエル出身の米国の認知心理学者・ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーらが熱心に取り込む、「利用可能性ヒューリスティック」(僅かな情報で、想起しやすい事柄の本質を決めつける)と「自己奉仕バイアス」(成功は自分の手柄・失敗は他人の責任に帰属させる)等の「認知バイアス」の研究は、現代心理学の最前線の風景の広がりを提示し、鮮烈な印象を与え、窺(うかが)い知れない影響力を及ぼしている。
行動経済学・認知心理学をリードするダニエル・カーネマンらのリザルト(業績)は、「自分の思考・行動が、特定・不特定他者のそれと同じ」という思考のバイアス・「フォールス・コンセンサス効果」という心理効果(誤認効果)が、普通に流布されている現象を、世俗の世界で呼吸を繋ぐ私たちに、普通に想起させてくれる説得力のパワーの凄みにある。