1 「一人でも生き残れば、奴らの負け。今日も無事だった。明日もよ。生き延びて」
「ジョジョ・ベッツラー。10歳。本日より、ドイツ少年団に入隊し、特別週末キャンプに参加する。厳しい訓練だ。今日から…僕は男になる。僕のすべての力と強さを捧げます。我の救世主アドルフ・ヒトラーに。総統のためなら、命も投げ出します。神のお力を」
ジョジョには力強い味方がいた。
アドルフ・ヒトラーその人自身である。
ジョジョの幻想の中で作られたこのパワーが、少年の内面の支えになっている。
「僕にはムリかも」と本音を晒すジョジョ。
「できるさ!お前はひ弱で、人気もない…だが、ナチスへの忠誠心はピカイチだ。堂々と訓練に参加しろ」
アドルフのこの言葉に勇気づけられ、「ヒトラー万歳」を繰り返し練習して、ヒトラーユーゲントの合宿に参加する。
「お前たちはここで大人になる。俺はクレンツェンドルフ大尉。通称キャプテン・K」
戦場で片目を失って戦力外となり、ユーゲントの訓練の指揮を取るようになったと自己紹介する。
「お前たちはこの2日間で偉大なドイツ軍の戦闘技術を学ぶ」
早速、訓練が始まったその夜、同じテントの親友のヨーキーと眠りに就く前に会話する。
「ユダヤ人って怖いな」
「別に。見つけたらぶっ殺す」
「見た目じゃ、分かんないだろ?」
「頭のツノを確かめる。奴らはクサいし…ユダヤ人を総統に渡したら、親衛隊に入れるぞ。そしたら総統の親友に」
「僕が君の親友だと…」
2日の訓練で、敵に止めを刺せるか聞かれた少年たちは一斉に「できます」と答えるが、反応が鈍かったジョジョが教官に指差され、答えを求められる。
「もちろん、殺しは好きです」
そこでウサギを渡され、首をへし折って殺せと命令される。
ウサギを抱いたジョジョに、全員が「殺せ、殺せ!」と煽り立てる。
ジョジョは堪らず、「逃げろ」とウサギを降ろすが、そのウサギは教官に捕まり首をへし折られてしまう。
「臆病者め。父親と同じだ」
「パパはイタリアで戦ってます」
父親は脱走したと臆病者の烙印を押され、「ジョジョ・ラビット」(臆病ラビット)と嘲笑されるのだ。
「ウサギになれ。そして敵を出し抜け。ウサギは勇敢でずる賢く、強い。ウサギになれ」
突然、力が湧いてきたジョジョは手榴弾の教練場へとアドルフと並走し、キャプテンKから手榴弾を取り上げ投げつけるが、木に当たって跳ね返り、ジョジョの足元で爆発してしまった。
病院に運ばれ、手当てを受けるジョジョ。
足を負傷し、顔に傷を負ったジョジョを母のロージーが励まし、外に出てキャプテンKの元に行く。
ロージーは責任を取らされ事務職に落ちたキャプテンKを殴り、ジョジョに仕事を与えるように要求する。
ラーム教官がポスター張りとビラ配りの仕事を提案する。
街中で、母と共に、公開処刑されたユダヤ人の首吊り遺体を目撃するジョジョ。
【「ヒトラー・ユーゲント」は1926年に発足し、「ヒトラー・ユーゲント法」(1936年)によって、ナチスドイツの青少年組織として、14~18歳の全ての男子の加入が強制的に義務化され国家機関であり、集団訓練を通じてナチズムのイデオロギーと軍事教練を受け、戦争末期には戦場にもかり出された。女子にも14~17歳の少女を対象に「ドイツ女子青年団」が組織された。ボーイスカウトなど少年少女の団体を「ヒトラー・ユーゲント」に統合し、キャンプ合宿やスポーツ大会などを通じて、1939年にはドイツの若年層の98%が団員となった。1938年には来日し、熱烈な歓迎を受けた】
ビラ配りが終わり家に帰ると、ロージーはおらず、姉のインゲの部屋で隠し扉を見つけて入っていくと、一人の少女が匿われていた。
恐ろしくなって逃げ出したジョジョを捕まえた少女はユダヤ人であることを告白し、通報したら「あんたも、お母さんも協力者だと言うわ」とナチス少年のジョジョを脅す。
「全員死刑よ」
ロージーが帰宅すると、ジョジョが壁の裏で音がすると言い、インゲだと話す。
ロージーはネズミだから駆除するまで入るなと指示する。
ジョジョを寝かしつけた後、匿っているユダヤ人の少女の元に行く。
「今のあの子は、可愛かったあの子のオバケなのかしら」
「私たち、皆オバケかも」
「そうね。厳しい人生ね」
「人生なんてない」
「ナチの連中は、“ユダヤ人を滅ぼす”と。勝たせちゃダメ」
「もう勝ってる」
「いいえ、勝はしない。一人でも生き残れば、奴らの負け。今日も無事だった。明日もよ。生き延びて」
ジョジョはリハビリでプールに行き、訓練に来ていたキャプテンKに質問する。
「ユダヤ人を見つけたら?」
「俺らに言え。親衛隊が殺しに行く。協力者もろとも。念には念を入れて、周りの人間も。延々と続く」
家に戻り、少女を呼び出し交換条件を示す。
「ユダヤ人のことを詳しく話してくれ」
「ドイツ人と似てるけど、私たちは人間」
「まじめに。ユダヤ人の秘密を全部話せ」
ここで少女がインゲのベッドに座ると、ジョジョが「座るな」と声を荒げる。
「友達だったわ。小さい頃のあんたを覚えてる」
「ムダ話はよせ。ユダヤ人たちの特徴を」
「私たちは金の亡者。でしょ?知られてないのは食べ物のアレルギーの件。チーズ、パン、お肉。食べたら即死。私を殺したいなら、それが一番よ。ビスケットも致命的」
懸命にメモを取るジョジョ。
「お母さんがパンを。優しいわ。人間扱いしてくれる」
「下等な人間だ」
「あんたは?」
「ユダヤ人が偉そうに!」
逆にジョジョは少女に捕まり、口を押さえられる。
「私の祖先は天使と戦い、巨人を倒神に選ばれし民族よ。あんたは、ちょび髭男に選ばれただけ。どっちが上?」
少女の名はエルサ。
ユダヤ人に関心を持ったジョジョは、そのエルサから様々なレクチャーを受ける。
エルサには婚約者のネイサンがいると知り、ジョジョは嘘の手紙を書いて読み上げる。
そこには、婚約解消について書かれているが、それを聞いたエルサが泣くと、直ちにそれを取り消す手紙を書いて読み上げる。
「また手紙が来たら知らせて」
「いいよ、分かった」
エルサとの交流で、徐々にユダヤ人少女への警戒心が解けて行き、アドルフの出番が減っていく。
人生論的映画評論・続: ジョジョ・ラビット('19) 生き抜く強さの連鎖が、刷り込まれた「英雄物語」を解体していく タイカ・ワイティティ
より