2010-09-08から1日間の記事一覧

無法松の一生('58) 稲垣 浩 <「分」の抑制力を突き抜けたとき>

やはりこれは、「純愛一直線」という単純な括りで片付けられる映画では決してない。 吉岡夫人は、松五郎を最後まで異性の対象として見ることはなかった。男の親切に対して、夫人は一貫して、謝礼金という形でしか恩に報いることをしなかったのである。 その…

浮雲('55) 成瀬巳喜男 <投げ入れる女、引き受けない男>

「浮雲」―― それは多分に諧謔性を含んだ一連の成瀬作品と明らかに距離を置くような、男と女の過剰なまでに暗鬱なる情念のドラマである。 大体、ここまで男と女の心の奥の襞(ひだ)の部分まで描き切った映画が他にあっただろうか。 時代がどのように移ろうと…