2011-03-11から1日間の記事一覧

妻よ薔薇のやうに('35)  成瀬巳喜男   <「人は皆、心ごころ」の世界を泳ぎ抜く>

山本君子。 東京丸の内のオフィス街に勤める女性である。ネクタイを締め、斜めに帽子を被るその装いは、典型的なモダンガールのスタイルを髣髴させる。 時は昭和ひと桁代。 満州事変を経ても、未だ中国への本格的な侵略戦争を開始していないこの国の当時の世…

愛と喝采の日々('77) ハーバート・ロス <激しい炸裂の「直接対決」が生んだ和解の凄味 ―― 或いは、「人生の選択」の持つ固有の重量感>

1 ディーディー ディーディーが住むオクラホマ・シティに、アメリカン・バレエ団が公演のためやって来た。 ディーディーは、元アメリカン・バレエ団のダンサーであったが、恋人のウェイン・ロジャースとの結婚を選択することで、バレエ団を退団するという経…

危険な年('82)   ピーター・ウィアー <自死によって炸裂した「物語のライター」の痛ましき愛国心>

本作は、社会派ムービーの取っ付きにくさをラブロマンスで希釈することで、本来的な「主題が内包する問題解決の困難さ」を提示した作品である。 この手法が成功したか否かについては、観る者によって判断は分れるだろうが、少なくとも、異質な国家の異質な文…

ただいま('99)  チャン・ユアン <「贖罪意識の累加の17年」という内実の重さ>

1 これ以上削れないという、ミニマムな描写の提示のうちに鏤刻した構築的映像 ラスト9分間で勝負する、この90分にも満たない映像の完成度の高さに舌を巻いた。 内側から込み上げてきたものが、幾筋もの液状のラインを成して、相貌を崩すほどの感動を与え…