2012-03-28から1日間の記事一覧

乱れる('64) 成瀬巳喜男   <繋げない稜線を捨て去って、振り切って、遂に拾えなかった女>

1 告白 「一周年記念 大特売!」と看板を下げたトラックが、マイクで記念セールのアナウンスする社員たちを乗せて、軽快な律動感を辺り一面に振り撒いて、町を走り抜けていく。 「全て半額のお値段!全店5割引という開店以来のサービスです!」 そこに流れ…

稲妻('53)  成瀬巳喜男  <離れて知る母の思い>

1 あまりに人間的で、嘘臭い装飾を、一切剥ぎ取ったそれぞれの生きざま ごくありふれた日常性を丹念に描く映像作家、成瀬巳喜男のその膨大な映像群の中で、私にとって最も愛着の深い作品は「稲妻」である。 「稲妻」は、私が「成瀬巳喜男」を「再発見」する…

歌行燈('43)  成瀬巳喜男   <木洩れ陽の中の表現宇宙>

1 プライドラインの確信的撃破 ―― その罪と罰 少し長いが、「虚栄の心理学」という拙稿から引用する。 「(虚栄心とは)自らの何かあるスキルの向上によって生まれた優越感情を、他者に壊されないギリギリのラインまで張り出していく感情であるとも言える。…

鶴八鶴次郎('38)  成瀬巳喜男   <「自己基準」に崩された愛、砕かれた芸道への夢>

1 覚悟を括った女の決定力 「ねえ、お豊ちゃん、あんた本当に帝劇に出るつもり?」 「ええ出ます。あたしはもう一度高座へ出て、昔の人気を取り戻してみたくなったの」 「それは願ったり叶ったりだけれど、ご主人が何て言うかな」 「大丈夫。許してくれるに…