2012-07-23から1日間の記事一覧

マンデラの名もなき看守('07) ビレ・アウグスト <千切れかかっていた「善」が、確信犯の「善」のうちに収斂される物語>

1 千切れかかっていた「善」が、確信犯の「善」のうちに収斂される物語 権力を維持するために行使される、過剰な暴力を是とするシステムに馴染めない「善」と、その権力への自衛的暴力を行使することを指示する確信犯の「善」が物理的に最近接し、そこに心…

ぐるりのこと('08)  橋口亮輔 <決め台詞なき映像を支配したもの>

1 予約された「日常性」が裂けていくとき 1993年冬 「週3日?」 出版社の同僚を驚かせる場面によって開かれるヒューマンドラマの幕は、その同僚を驚かせた女の天真爛漫な高笑いを大写しにさせていく。 およそ不幸とは無縁な印象を与える本作のヒロイン…

かもめ食堂('05)  荻上直子 <「どうしてものときはどうしてもです」―― 括る女の泰然さ>

1 「距離の武術」としての「アイキ」の体現者 合気道―― 「理念的には力による争いや勝ち負けを否定し、合気道の技を通して敵との対立を解消し、自然宇宙との『和合』『万有愛護』を実現するような境地に至ることを理想としている。主流会派である合気会が試…

歩いても 歩いても(‘07)  是枝裕和 <『非在の存在性』の支配力、その『共存性濃度』の落差感>

序 リアリズムで抜けていく「人生 論」不在の状況の寒々しさ 近年、私が観た邦画の中では、最も上出来の映像だった。 映像全体から伝わってくる空気感と臭気は、私の体性感覚の内に微細な部分をも溶融して、老夫婦の加齢臭のみならず、阿修羅の異形(いぎょ…

しゃべれども しゃべれども('07)  平山秀幸 <「ラインの攻防」 ―― 或いは、「伏兵の一撃」>

1 絶対防衛圏 「噺家(はなしか)の名前を何人知っているだろう。テレビによく出ているので3、4人。そんなもんじゃないだろうか。東京で450人あまり、上方も合わせれば600人以上。それが現役の噺家の数だ。寄席は都内でたったの4軒(注1)。そう…