2013-01-05から1日間の記事一覧

アンチクライスト(‘09)  ラース・フォン・トリアー<どのように振舞っても救われない人生彷徨の、「壮絶なる破綻」の絶望的な振れ方>

1 「救い」の欠片すら拾えない「狂気」に充ちた映像の凄み ラース・フォン・トリアー監督 ―― またしても、途轍もない映画を作ってくれたものだ。 作り手の「狂気」が、それを演じる俳優に憑依し、それが化学反応を起こすことで、止まる所を知らない程に裸形…

善き人のためのソナタ('06)  フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマル <スーパーマンもどきの密かな睦み―或いは、リアリズムとロマンチシズムの危うい均衡>

1 序 「善」なるものという確信的理念系 恐らく、初めから人間が普通に生きていくレベルの自由を保障されている「西側」に住む感覚が、それ以外の感覚を経験し得ないほどに自我の内に張り付いてしまうと、その自我は「自由の価値」の実感を改めて感受する時…

シンドラーのリスト('94) スティーブン・スピルバーグ <英雄、そして権力の闇>

1 歴史の重いテーマの映像化の中で不要な、「大感動」のカタルシス効果 ポーランドで軍用工場を経営していたオスカー・シンドラーは、ユダヤ人会計士の協力を得て、ゲットーのユダヤ人を工場労働者として集め、好業績を挙げた。 複数の愛人と関係し、放恣な…