2013-10-18から1日間の記事一覧

ビルマの竪琴(‘56) 市川崑 <ラストシーンの反転的な映像提示 ―― イデオロギーに与しない相対思考の切れ味>

1 無残に朽ち果てた白骨の爛れ切った風景に呑み込まれて アジア・太平洋戦争末期のビルマ(現在のミャンマー)で、苛酷な行軍兵士たちの日本軍の小隊があった。 人格者然とした音楽学校出身の井上隊長の指揮下で、皆で合唱することで疲弊感を束の間忘れる方…

サイドカーに犬('07)  根岸吉太郎 <「距離」についての映像 ―― 或いは、成就した「役割設定映画」>

1 釣り堀で 不動産会社に勤務する近藤薫は、若いアベックに高層マンションの一室を案内するが、不調に終わり、バルコニーの窓を閉めたとき、ふぅっという溜息を洩らした。 このファーストシーンの何気ないカットの内に、30歳になって真面目に仕事する彼女…

太陽がいっぱい('60) ルネ・クレマン <「卑屈」という「負のエネルギー」を、マキシマムの状態までストックした自我の歪み>

1 「越えられない距離にある者」に対する、普通の人間のスタンスを越えたとき 「越えられない距離にある者」に対する、普通の人間のスタンスは二つしかない。 一つは、相手を自分と異質の存在であると考え、相対化し切ること。 例えば、「越えられない距離…